2月初旬、富山県が春の観光スポットと富山の味覚をPRするメディア向けイベント、富山の魅力「実食・実感」デーを都内アンテナショップ「日本橋とやま館」で開催した。
日本橋とやま館のイベント参加は、1月の寒ブリ解体ショーに続いて今年2回目。今年は富山県に縁があるのだろうか。平日の午後、早めにデスクワークを切り上げ、いそいそと日本橋とやま館に向かった。約1時間30分のイベントで富山県の観光動向を聞き、富山の味覚を堪能した。
冒頭で日本橋とやま館館長田崎氏から、春、話題になるチューリップイベントなど旬の観光や、食について説明を聞いた。また、最近の富山県人の活躍として、今期、NBAの名門ロサンゼルス・レイカーズに移籍した八村類選手の活躍、再起を目指す元大関 朝乃山の十両優勝に触れた。その後、春おすすめすの3カ所の観光スポットについて、その事業者や観光協会から話を聞いた。
最初に、県西部高岡市の「国宝 勝興寺」。次に、山岳観光「立山黒部アルペンルート」。最後に、3月にはじまる「ほたるいか海上観光」。ずいぶん前だがいずれも訪れたことがある。記憶と照しあわせ紹介してみたい。基本情報は写真見出しのリンクで確認を。
国宝指定されたばかりの「勝興寺」(高岡市伏木)
勝興寺は高岡市の漁師町、伏木にある。高岡観光といえば、あいの風とやま鉄道「高岡駅」に近い「国宝 瑞龍寺」や、重要伝統的建築物群保存地区「金屋町」「山町筋」のイメージがある。
伏木は高岡駅からJR氷見線に乗り継いでいく必要があり、それならその先の雨晴海岸や氷見に行ってしまう旅行者が多い。伏木は江戸時代、北前船でにぎわった繁栄を偲ばせる町家や洋風建築が建つ街だが、訪れる旅行者は多くはなかった。
「勝興寺」がにわかに注目されたのは2022年10月、寺の「本堂」と「大広間・式台」の2棟が国の文化審議会で国宝に答申され、12月に正式に指定された。富山県内だと1997年の「瑞龍寺」の国宝指定以来25年ぶりの2件目のこと。
勝興寺は平成10年から23カ年計画で保存修理工事中だが、国宝に指定された2棟は2021年3月に修復工事を終えていた。「国宝答申の報道が出た直後から、訪れる人が6-7倍に増えた。国宝の効果が明らか。」(勝興寺文化材保存・活用事業団)と話す。今のところ、寺を直行直帰する人が多いらしいが、春になれば伏木の街を歩く人が増えるだろう。街にはいくつかカフェもある。街を散策する時、立ち寄る場所があるのはありがたい。
山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」は富山県最大の観光スポットだ。総延長37.2kmの交通路にマイカーでは入れない。立山駅からケーブルカー、高原バス、トローリーバス、ロープウエーを乗り継ぎ、自分が決めた今日のゴールを目指す。山岳ながら緻密に整備されているから安心安全に旅ができる。しかし、途方もなく広大なので、移動、散策、食事、帰路の計画を十分に練る必要がある。モデルコースを研究するほか、心配なら旅行会社主催のツアーに参加するとよい。
4月中旬頃から高さ20mにも迫る、巨大な雪の壁の間を歩く「雪の大谷」が開通する。この時期から国内旅行客やインバウンド客で賑やかになる。
記者は猛暑が続く真夏に訪れた。山の麓の暑さから逃れ。普段、山登りもしていないのに日本名山「立山」の中腹に立ち、目の前に広がる絶景や気持ちよい風を受ける。夏の緑が色づく紅葉の季節も素敵だろう。
なお、立山黒部アルペンルートに入ると1日を過ごすことになる。何度も行ける場所ではないだろうから、訪問する時期は悩みどころだ。
ホタルイカ漁ライブショー「ほたるいか海上観光」(滑川市)
3月から「ほたるいか海上観光」がスタートする。5月まで滑川の沿岸で富山湾の神秘とも称される、ホタルイカの定置網漁が解禁される。観光船に乗ると、早朝から操業しているホタルイカ漁船の間近から漁を見学できる。
期間中、滑川漁港そばのホタルイカ水族館を運営する事業者と市役所の職員が観光船を担当する。この時期になると担当者の勤務形態が変わり、毎日朝2:00集合、2:30出航、4:00帰港の観光船の運航を管理する。「あのようなことがあった。安全な運航管理を徹底している」(WAVE滑川)と話す。乗船する時は、スタッフをねぎらいたい。
乗船者には厳しい朝が待ち受けている。夕方、遠くから滑川に到着したら、早速、居酒屋で食事と地酒を楽しみたくなるのは分かる。調子に乗って2次回に行くかもしれない。ようやく深夜24:00、ホテルの部屋に戻る。その2時間後、集合場所に到着している必要がある。記者は、集合場所に向かう前のホテルロビーに現れなかった人物を知っている。その人物には感謝した。万一、酒の匂いさせてピリッとした出航前の空気の集合場所に来られたらと思うと…。なお、観光船の出航は海の状態次第なので出港率は半々くらいで考えておくとよい。「ホタルイカ海上観光」は自分に勝ち、天を味方にした人が体験できるようだ。
この3カ所は「勝興寺」をのぞき、富山県を代表する有名な観光スポットだ。国宝になった「勝興寺」も春からメジャースポットになる。一方、富山県には有名や人気とかではない、心地よい場所がたくさんある。入出場のある観光施設ではなく、ドライブ中にめぐり合う絶景や、古い街なみだ。メジャーな観光スポットに行くついでに、積極的に寄り道をしてほしい。きっと記憶に残る風景を見つけられる。
富山の魚介類や郷土料理がならぶスペシャル御膳の登場
話を聞いている途中、大きな盆に載せられた料理が運ばれてきた。盆には富山の魚介や郷土料理がところせましとならぶ。盆が小さいのではない。料理はひとつひとつ、しっかり1人前はある。試食ではなく、本物を味わってもらおうという意気込みを感じた。20人ほどいた参加者全員に料理が配られてから、和食レストラン「富山はま作」の料理長「浜守淳」氏からメニューの説明を聞いた。食材の解説は料理のうま味を増すレシピだ。
ひとつひとつの料理の説明ははぶくが、料理の写真と名前を見てほしい。それだけで富山の食の魅力を感じてもらえると思う。今回、富山ならではの食材を一堂にした御膳は圧巻だった。
【特別膳】
一口一口、かみしめ食べ進める。自然にうんうんと頷く。参加者は1人づつ前を向いて座っている。記者の席は真ん中あたり。周囲の人を見ると、うんうん頷いている。一口食べるごとに頷く。目を見開きながら頷く人、首をゆっくり縦に大きく頷く人などいた。
この御膳はスペシャル。これだけの御膳を提供する店は富山県にもないだろう。ここ「富山はま作」の定番メニューでもない。特別な御膳を考えたのは料理長であることに間違いはない。あとは読者の自己判断におまかせする。
今回、1月の寒ブリ料理に続き、富山のおいしい食のパワーをイベント名そのままに実食、実感できた。久しぶりに富山県に行ってみたくなる。
富山県のイメージが変わった8年
2015年の北陸新幹線「富山開業」か来月8年目を迎える。この期間、富山県を知る人が増え、東京などの発地から見る富山県は、魚介を中心に食事がおいしい県のイメージが定着した。調査機関やメディアが発表する食のおいしい都道府県ランキングで富山県はトップ10に入り、魚介類ではトップにもなる。調査元はさまざまあるが、各社の結果はだいたい同じようなものだ。
新幹線開業以前、北陸は陸の孤島ともいわれた。東京から鉄道のアクセスが悪い。大阪から直行していた特急は時間がかかる。さらに富山県の手前に金沢が立ちふさがる。また、東海から直線距離は近そうだけど山越えがあり意外と遠い。愛知県民は岐阜県飛驒高山までは行っていた。
大ざっぱにいうと、当時の富山県は食が話題になるほど旅行者がいなかった。自治体も観光PRに積極的ではなかった。近ごろ見なくなったが、山手線でラッピング電車を走らせていたくらいの印象だ。
なぜ富山県の食はうまいのか
自然に恵まれ食材が豊富だから?日本は海に囲まれ67%は森林。地方はどこも食材が豊富だ。どの町も豊かな食材があるとPRする。であるのに食糧自給率38%(カロリー消費)の現象は奇妙だ。国家戦略の結果であるからいかんともしがたいが。
話を戻すと。食材や料理から都道府県を想起する機会というと、旅先やたまに行く郷土料理レストラン、マスコミからか。マスコミが発表するおいしい食事の都道府県ランキングが成立する意味がなんとなく分かる。
アンケート回答者が富山県に票を入る理由は何か?おいしい食を出口に富山県を考えてみた。
富山県は、3000m級の山々が連なる立山連峰から水深1000mを超える富山湾まで高低差4000mの地形に横たわる。山頂から海は25km~50kmの短い距離。恵みの雨が山々や肥沃な大地に染みこみ河川になり、田畑に注がれ、富山湾に流れ出す。中には富山湾の水深300m沖の海底からひっこり深層水が湧き出る。富山県は「弁当忘れても傘忘れるな」といわれるほど雨が多く、5つの1級河川と何百もの水系がある。それを生かした県内発電電力量の7割は水力だ。水と自然がつながり生成された栄養分を摂取した海の幸や山の幸が収穫される。食材をあずかる料理人が腕によりをかけた料理をつくり、旅行者が食べる。富山県の食はうまい事実と根拠が相まって評判になる。このようなところか。 |
北陸新幹線「福井・敦賀延伸開業」に対する富山県の課題
評判の高い食のスコアに対し、やや気になるのが観光のスコアだ。富山県は観光で行きたい都道府県ランキングだと最近、20位台前半が定位置だ。たしか北陸新幹線開業後は10位台だった。隣の石川県、金沢はトップ10の常連だ。旅行者は旅先や宿選びで、「温泉」「景観」とならび「食」で決めることが多い。そうすると、富山県は食の魅力を観光に生かしきれていないともみえる。
2023年3月北陸新幹線「福井・敦賀延伸開業」を控え、1年前の来月から北陸エリアの注目は金沢の先に移ってゆく。福井県は、2020年秋に発覚した国交省の工事遅れで開業が1年遅れる苦汁をなめた。それをバネに昨年から食や観光地のPRに邁進している。県関係部署から何度か話を聞いたが、総じて職員の士気が高い。
富山県はある意味2回目の北陸新幹線開業を迎える。今回は旅行の最終目的地としての宿泊旅行以外、往復で素通りされず新幹線停車駅で下車してもらえる日帰りなど短期プランやその文脈の発信も必要になるだろう。食の魅力を観光に生かせるか。
いずれにせよ来春、北陸3県一体となり、日本の旅行を盛り上げてほしい。