「地元から通信」シリーズ第9回です。今回は、米どころの宮城県登米市で観光に携わる伊藤さんからの寄稿をお届けします。田園地帯をドライブしていると突如として現れる巨大な構造物?それは、登米市の豊かさの源泉のようです。今回、いつもの観光施設とは異なる、この地域ならではの魅力をご紹介します。(写真©大森國弘「田んぼに浮かぶモン・サン=ミシェル」)
宮城県登米市。「登る米」と書いて、「とめ」と読みます。
元々は「とよま」と読んでいましたが、廃藩置県の際に東京から来たお役人が、「とよま」と読めず、なんとなく「とめ」と読んだといういわれがあります。(諸説あり)
どのみち、よほど地理に詳しいなど特殊な事情がなければ、「とめ」と一発で読める人はそうそういないでしょう。
NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の舞台地の一つに
そんな難読「登米市」(¨登¨は小学3年生、¨米¨は小学2年生で習う)ですが、テレビで毎朝連呼される時期がありました。
2021年、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の舞台地の一つとなり、気仙沼市出身のヒロインが、登米市の森林組合に就職し、いろいろな人と出会い、進むべき道を見つける町として描かれました。
ドラマを見ていない方にはピンとこないと思いますが、雄大な北上川が流れ、伊達家の系譜の城下町があり、明治時代からのハイカラな建物が健在し、農林業が盛んで、森林セラピー、DIY部材の組手什(くでじゅう)、登米の愉快なお母さんたちが郷土料理のはっとをつむシーン等が描かれました。
ここで、「おかえりモネ」放送前の、登米市説明テンプレをご紹介します。
登米市は宮城県の北東部、岩手県との県境に位置し、人口約7万5000人、ラムサール条約登録湿地である伊豆沼があり、西部が丘陵地帯、東北部が山間地帯、北上川が貫流し、豊かな水環境から肥沃な「登米耕土」を形成しています。
気候にも恵まれ、地名のとおり米どころであり、キュウリ、イチゴ、リンゴ、登米産牛など、とにかくおいしものがよく育ちます。
歴史も自然も人も食も充実しており、ないのは海と大学だけと言っても過言ではありません。
とめどない登米の魅力
9つの町が合併して誕生した「登米市」は、さまざまな魅力が点在しています。
迫町(はさまちょう)にある、オランダ風車白鳥がシンボルの長沼フートピア公園。
登米町(とよままち。こちらはトヨママチと読みます!)は、「みやぎの明治村」と呼ばれ、明治時代から残るハイカラな旧登米高等尋常小学校や、隈研吾氏の作品「森舞台」と「登米懐古館」があり、タイムスリップができる「建築の町」でもあります。
東和町(とうわちょう)は、ユネスコ世界文化遺産にも登録されている「米川の水かぶり」、隠れキリシタンの里、伊達騒動でおなじみ原田甲斐の菩提(ぼだい)寺 東陽寺などがあります。
中田町(なかだちょう)は萬画家・石ノ森章太郎の出身地。田んぼのイナゴから仮面ライダーの着想を得たと言われています。
豊里町(とよさとちょう)には、暗い冬の帰り道を背中を丸めて歩く子どもたちのために、イルミネーションで明るくしよう!と大人たちが始めた愛くるしいイルミネーションイベント、「豊里駅前冬の蛍通り」があります。
米山町(よねやまちょう)には、沼の周囲を取り囲むように植えられた800本の桜が沼の水面に映り、まるで東山魁夷の一幅の絵のような平筒沼(びょうどうぬま)ふれあい公園があります。
石越町(いしこしまち)には、「高森ブルー」と言われる青が美しい紫陽花が咲き乱れる、「登米市のUSJ」とも言われる遊園地チャチャワールドいしこしがあります。
南方町(みなみかたまち)には約6㎞の、住民たちが植えた桜のトンネル「みなみかた千本桜」があります。
木の町 津山町(つやまちょう)には全国的にも有名なもくもくハウスがあります。
矢羽模様が美しいカトラリーや、あの先生も持っているサメちゃんキーホルダーをお買い求めいただけます。
田園にそびえるカントリーエレベーター:登米市の豊かさの証し
さて、前置きが長くなりましたが、朝ドラの舞台になるほど美しく豊かな登米市の「真の豊かさ」の象徴であり、¨リアル登米¨している施設、「カントリーエレベーター」をご紹介いたします。
そもそも、カントリーエレベーターというインフラ構造物をご存じでしょうか?
カントリーエレベーターとは、農家の皆さんが刈り取ったお米(籾:モミ)を乾燥させ、大きなサイロ(米穀倉)で貯蔵する施設のことです。お米屋さんや精米工場から注文が来ると、サイロから籾を出し、籾摺(モミスリ)をして玄米の状態で出荷します。
アメリカの農村(カントリー)では、背の高いサイロにお米や麦などを上げるために昇降機(エレベーター)が付いていて、その高さがとても高いため地域のシンボルやランドマークになっています。この2つの言葉が合体してできた言葉と言われています。
米どころ登米市には、高さ22.1メートルから35メートルにもなるJAみやぎ登米のカントリーエレベーターが7基(迫町、登米町、中田町、豊里町、石越町、南方町、米山町)もあります。それぞれフォルム、機種、お米を乾燥する手法などが異なり、絵本に出てくるお城のようなもの、蔵の町並みに合わせて蔵のようなビジュアルのもの、何かの秘密基地のようなフォルムのもの等々。
車を走らせている時に、田んぼのど真ん中に突如ぬらっと現れる巨大施設は異様であり、ですが、神殿のようでもありで注目せずにはいられません。
地元の皆さんは小さい頃から見慣れているので、特に何も思わないそうですが、見慣れない人間からすると本当にびっくりします。私も初めて見た時は、黒船を見たかつての日本人と同じリアクションをしていたことでしょう。
驚きの後、「あれは何?」、「なぜお城の形をしているの?」、「で、あれは何?」となります。
正体が分かってしまえばなんてことはないのですが、とはいえ、「カントリーエレベーター」というイカツい名前、ダム系が好きな人とこの気持ち分かち合いたい!となります。
そして、エレベーターで本当に米が登っている、つまりリアルに¨登米¨している…こんな異様なことはないと思います。登米市のカントリーエレベーターは、現代の真の¨登米¨です。
江戸時代から米どころだった登米。北上川から運河と海を使って廻船問屋がお米を運び、江戸へとお米が登って行く様子から「登米」の由来になったとも言われています。
特に何回見ても心しびれるのが、田植えシーズンが本格化する前、田んぼに水が張られ、その姿が水面に映る様です。遠くから見ると、まるで「田んぼに浮かぶモン・サン=ミシェル」のようです。
水鏡に映る姿はさらに神秘的で、これから農家の皆さんが田起こしをし、苗を植え、手入れをし、黄金色になったら収穫をし、収穫したとたん渡り鳥が極東ロシア方面から飛来し、日本に飛来する渡り鳥の9割が伊豆沼周辺で越冬すると言われます。お隣の栗原市の栗駒山が雪化粧を帯び、雪化粧が落ち始める頃、春が来て渡り鳥が帰り、そしてまた田植えが始まる…このお米の物語が想像できて、私の辞書の、「明鏡止水」が埋まる気がします。
点在する登米市の魅力を巡る道中でぬらっとカントリーエレベーターに出くわすもよし、7基のカントリーエレベーターのみをディープに巡るもよし。そして、春夏秋冬季節を変えて巡るもよし。
田んぼが広がり、窓を開けてドライブしたくなる道(たまに堆肥の香ばしい香りがするのも一興)が続きます。
その道を、四国の「しまなみ海道」をオマージュし、「登米富め農道(とめとめのうどう)」と心の中で呼んででいます。どれか1本の道を指すのではなく、田んぼが広がる登米市の道は登米富め農道と言って差し支えないでしょう。
次にまたこのような機会をいただけるなら、市内に4つある森林組合をご紹介させてください。「空師」をご存じですか?
文章:伊藤 詩織(登米市観光シティプロモーション課) 日頃、観光サイト「トメのコメジルシ」など観光宣伝を担当。 趣味/特技:日本酒、柴犬、アイロンビーズ、戦闘機 |