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福島県岩代で『おじさん図鑑宣言』採択—“おじさん”が観光スポットに?

 「おじさん」という言葉には、「うざい」「ダサい」「頑固」などネガティブなイメージがつきまとう。そんな中、高齢男性を地域再生の希望として発信するユニークな取り組みが福島県二本松市岩代地域で進められ、注目を集めている。(写真『おじさん図鑑宣言』採択式典)

ステージに人が立っている(二本松市岩代地域おじさん図鑑宣言の式典)

 きっかけとは、2023年に岩代観光協会が発行した『岩代おじさん図鑑』だ。この冊子は、地域の観光スポットの守り手など約20名の高齢男性を「岩代おじさん」と呼び、その人柄や仕事ぶり、人生観にスポットを当てた内容が話題となった。なお、「岩代おじさん」は一般的な社会通念より高年齢の人々を指す特徴がある。理由は、70代から80代が地域活動を支えているためだ。

※「博報堂生活総合研究所2020年調査」では43歳~69歳を「おじさん」と認定している()。

 

 地域の魅力を「人」に焦点を当てたこの取り組みは大きな共感を集め、さまざまなメディアでも紹介された。その結果、県内外から「おじさんに会いたい」という若い世代の訪問者が増加。累計発行部数は1万部を超え、関連サイトへのアクセス数も数万件に達した。2024年には、この成功を受けて後継企画「ふしぎな地図Ⅰ」が発行されている。

 

 こうした反響を背景に2025年3月9日(日)、岩代地域では『おじさん図鑑宣言』が採択。「地域は人でできている」という理念のもと、今後、地域を支えるおじさんたちの魅力をさらに広く発信してゆく。宣言では以下の3つが約束された。

  1. おじさんの存在を通じて地域の魅力を高め、人々の交流を促進する。
  2. 宣言の精神を広く共有し、賛同する団体や個人との協力関係を築く。
  3. おじさんを軸に人々の絆を深め、世界平和への小さな一歩を踏み出す。

 

 宣言採択式には冊子の表紙に登場したおじさんたちも姿を見せ、式典に華を添えた。式典の参加者からは「おじさんが主役の地域づくりという発想が新鮮」「高齢化を逆手に取った素晴らしい取り組み」といった声が聞かれた。

 

 観光協会では、宣言を機に岩代を「おじさん図鑑の聖地」と位置づけ、おじさんと交流できるイベントを計画。観光客と地元おじさんの交流の場を創出し、一過性の観光ではなく、リピーターの獲得や移住促進にもつなげたい考えだ。

 

 プロジェクトを企画した地域おこし協力隊の有野真由美さんは、「宣言を機に、地域で暮らす人々の魅力発信をさらに強化し、各地と交流できればうれしい」とコメント。有野さんは今年3月をもって卒隊するが、「岩代で地元密着の人の魅力に開眼した。これからも何らかの形で関わりたい」と今後の展望を語った。

 

 岩代における「おじさん図鑑」の試みは、近年社会的に課題視され、特に若い世代から距離を置かれがちな「おじさん」のイメージを逆転させる挑戦だ。この取り組みは、少子高齢化や過疎化に悩む他地域にとっても、地域資源の新たな捉え方を示す貴重なヒントになる。

 

 まじめなのか遊び心なのか、現地で実際に交流したおじさんと若者との間にも意識のギャップも存在するだろう。しかし「おじさん図鑑」を通じて、互いの距離が確実に縮まったことは間違いないようだ。

 

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