旅工房、元社長を損害賠償請求へ 雇調金不正受給で-アドベンチャー傘下で信頼回復急ぐ

中堅旅行会社の旅工房は2025年11月7日、コロナ禍に受給した雇用調整助成金の不正をめぐり、元社長のA氏を相手取り、東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起する方針を発表した。A氏は2023年、GoToトラベル給付金の不正受給への関与が判明し、社長を辞任している。
| ※記事中の呼称「元社長A氏」および「A氏」は、旅工房が公表したIRリリース内で用いられている「A前社長」の表記に準じています。 |
旅工房は2025年3月、東京労働局から2020年~2022年にかけて受給していた雇用調整助成金の不正受給疑義を指摘され、外部専門家による特別調査委員会を設置。同委員会が9月に発表した報告書によると、A氏の発案で休業中の従業員を稼働させ、実態と異なる内容で申請を繰り返し雇用調整助成金を不正受給していたとして、同社は会社法に基づく任務懈怠責任を問う方針だ。
同社は2025年10月15日、国に違約金などを含む約7億7,800万円を返還。A氏への損害賠償請求額は精査中だが、国へ返還した雇用調整助成金のうち本来支給対象となる分のほか、違約金・延滞金、調査費用などが含まれる見通し。このうち、違約金と延滞金で約2億6,359万円、調査費用で約3億8,589万円を特別損失として計上している。
なお同社は、A氏が保有する旅工房の株式137万3,900株(約2憶2,500万円)を仮差し押さえているという。
A氏は1994年に旅工房の創業メンバーとして参画。その後、経営権を得て事業を拡大し、2017年に東証マザーズへ上場(現グロース市場)させた。一方で、2023年2月、GoToトラベル給付金の不正受給に関与し、社長を辞任。その後、同年7月に旅行予約サイトを立ち上げている。
「アドベンチャー」による旅工房子会社化
A氏の辞任後、取締役だった岩田静絵氏が社長に就任したが、2025年9月1日、雇用調整助成金の不正受給や不適切なソフトウェア資産の計上などで引責辞任した。
一方で、旅工房は2023年10月に、旅行予約サイト「skyticket」を運営するアドベンチャーの子会社となっている。
アドベンチャー社は、現社長の中村俊一氏が慶應義塾大学在学中の2004年にネット広告事業で創業し、2年後にネット旅行会社として再スタート。2014年に東証マザースへ上場(現グロース市場)した。
子会社化のタイミングで、アドベンチャー社の社長室に所属する新卒入社半年の轟木有里珠氏(慶應義塾大学出身)が、旅工房の第三者割当増資で中心的な役割を担ったとして取締役に就任し、話題を呼んだ。
その後、2025年10月1日付で監査法人出身の小林祐樹氏を外部から社長に迎えた。小林氏は2009年にキャリアをスタートして以来、15年間で複数社を経験しており、旅工房は出向を含めて6社目となる。
なお、轟木氏は現在もアドベンチャー社の社長室に籍を置きながら両社の協業を担当しており、旅工房の経営陣では唯一の親会社出身者となっている。
子会社化から労働局の指摘まで
今回の損害賠償請求の提訴は、2025年3月に東京労働局からコロナ禍の雇用調整助成金の不正受給に関する疑義が指摘されたことを受けて設置された特別調査委員会に端を発する。同委員会による外部専門家の調査で、不正の実態が確認された。
一方、アドベンチャー社が旅工房を子会社化したのは2023年10月であり、労働局からの指摘までの約1年5カ月の間、不正受給に関する兆候や疑義は同社から公表されていなかった。
旅工房の見解
この間について旅工房IR担当に質問すると、アドベンチャーによる子会社化以降は、上場会社としてのガバナンス方針に基づき、旅工房の経営状況や内部管理体制について必要な範囲でモニタリングを行っていたという。
一方で、雇用調整助成金に関する事案は「当時の経営体制下で発生したもので、子会社化時点では外部から容易に把握できる性質のものではなかった」と説明した。
さらに、モニタリングでの精度や範囲が十分であったと考えるか尋ねると、「当社側からは回答を差し控えたい」とした。
なお、特別調査委員会を委嘱したアンダーソン・毛利・友常法律事務所とは、2023年にGoToトラベル給付金に関する再検証を依頼した経緯があるが、継続的な顧問契約はないと説明している。
さらに同社は、「今回の件によりご心配をおかけしたお客様や関係各位に深くお詫び申し上げる」とした上で、2026年6月期を「第2の創業」と位置付け、「信頼を取り戻し、信頼で勝つ」を掲げ、安心して選ばれる会社へと立て直すことが自らの責務だと強調した。