大阪市、特区民泊2026年5月で受付終了 駆け込み猶予期間と積みあがる万博レガシー

大阪市は2025年12月1日、国家戦略特区制度を活用した「特区民泊(外国人滞在施設)」の新規申請を、2026年5月29日で終了する方針を正式に決定した。 ただし、既存の施設は営業を続けられるほか、今後およそ半年の猶予期間に申請し、認定を受ければ運営の継続が可能となる。
維新市政が推進した「特区民泊の一極集中」
大阪市が「特区民泊」を導入したのは2016年10月。橋下徹氏・吉村洋文・松井一郎氏ら大阪維新系市長のもと、インバウンド拡大と成長戦略を掲げて制度が積極的に活用されていった。
2023年に横山秀幸市長が就任後、大阪万博を見据えたインバウンド客の受け皿として認可数が拡大するとともに、住民とのトラブルが健在化したとみられる。なお、民泊施設の運営事業者の半数近くが中国人や中国系法人であると報じられている。
特区民泊は、通常の「新法民泊」と異なり、年間営業日数の上限がなく、収益性が高い。規制緩和を背景に投資マネーが流れ込み、現在では全国の特区民泊の約9割にあたる約7,000施設が大阪市内に集中。住宅街のアパート・マンションが次々と民泊用に転用される状況が生まれた。
訴訟リスクに備えた出口戦略 半年の新規申請猶予期間
急増した特区民泊をめぐっては、騒音、ごみ出し、共用部のマナー、事業者不在などのトラブルが住居地域を中心に問題が顕在化している。大阪市は2024年度に苦情件数が400件(2021年88件)に増えたことを受け、2025年7月に横山市長を議長とする「民泊宿泊対策チーム」を設置し、3回目の会議が行われた10月に新規受付を停止する方針が示された。
なお、市が具体的に示した「停止時期」は、直近ではなく2026年5月末で、この間の新規申請は、審査を通れば既存施設として営業が続けられる。
「半年の猶予は訴訟リスクへの備え」と大阪市
この長いリードタイムについて、よい旅ニュース通信編集部が特区民泊受付窓口・大阪市観光課に聞くと、「事業者からの訴訟リスクに備えた周知期間であり、弁護士からのアドバイスがあった」と説明。さらに、「特区民泊の申請を前提に建築中の建物があり、即時停止はトラブルになる可能性がある」と話す。
つまり、市側が想定しているのは、事業者からの法的反発であり、その回避が猶予期間設定の背景になっている。
一方で、半年間の周知期間は、すでに大阪市内でネットワークを築く外国人投資家や国内事業者にとっては、「最後の駆け込み期間」として十分な時間が確保されたことになる。地元不動産供給側も「商い優先」の土地柄、猶予期間中に活発な取引が進む可能性が見込まれる。
市民が望むのは「これ以上増やさないでほしい」という抑制だが、実際には「まだ増やせる」余地を残した停止スケジュールとなる。
政治判断が映し出す優先順位
今回の特区民泊新規受付終了は、単なる制度改正ではなく、政治判断の優先順位を示している。トラブルが顕在化しても、直ちには止めない。停止を決めた後も、半年間の猶予と投資回収の逃げ道を残す。
加えて、大阪市内の特区民泊トラブルは2024年4月(2024年度)から急劇に増えていたにもかかわらず、市が本格的に問題へ向き合い始めたのは2025年7月からである。
特区民泊が万博レガシーに
2025年4月に大阪万博開幕を控え、大阪市内では深刻な宿泊施設不足が指摘されていた。その中で、特区民泊がインバウンド客の受け皿として重要な役割を担っていたことは否定できない。さらに、特区民泊をここまで拡大させたのは、他ならぬ大阪維新市政である。トラブルを受けた政策の見直しよりも、万博に向けた宿泊インフラの確保が優先されたのは自然な流れともいえる。
2026年5月、特区民泊の新規受付は終了するが、既に営業している施設、そして猶予期間に新規申請され今後も増えてゆく施設もまた、維新市政と大阪万博が残したレガシーとなり、住民は今後もインバウンド客とのトラブルを抱えてゆくことになる。
関連サイト
大阪市
🔗https://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000664114.html
民泊制度ポータルサイト(日本政府観光局)
🔗https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/index.html