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【検証】都庁プロジェクションマッピングの来場者数と経済波及効果?ー集客装置「展望室」の存在に照らし

東京都が実行委員会形式で2024年2月26日に開始した都庁でのプロジェクションマッピング事業に関して、都議会やSNSなどで議論が行われる中で、小池都知事(71歳)は3月15日「経済波及効果は18億円」と明言しました。

都庁プロジェクションマッピングの経済波及効果

都庁プロジェクションマッピング事業の議論では、2023年度に7億円および2024年度に9億5000万円の予算額、さらには今年8月まで都の入札参加禁止処置を受けている大手広告会社「電通」のグループ会社「電通ライブ」が事業を請け負っていた事実が都議会やSNSで議論になっていました。

 

批判に対して、小池都知事は3月15日の都庁記者会見で、「プロジェクションマッピングの経済波及効果は18億円と想定している」と強調し、算出方法は、来場者の飲食や宿泊による消費を基にした試算であるとして、事業の合理性を訴えました。

 

よい旅ニュース通信は、3月5日の記事で、都の関係者への取材をもとに、2023年度における都のプロジェクションマッピング事業の受託者が「電通ライブ」であったこと、法的に問題がないにもかかわらず「電通ライブ」の名前が公にされていなかったこと。また、安易な現場運営について(来場者カウントと仕掛け)、さらに大阪府主催の阪神オリックス優勝パレードでも同じ形で「電通ライブ」が事業を受託していたことを報じました。

東京都議会の風景

3月28日本年度最後の本会議で各党派議員の代表者質問の中で、プロジェクションマッピング事業の予算ついて、公明と都ファーストはそれに触れず、自民は説明責任の必要性に触れ、立憲民主と共産、ミライ会議が反対を唱えた。写真は散会直後、使い捨てカメラによる撮影。

 

来場数2万人はそれっぽくも、カウントしていなかったはず?

3月12日の都議会で都から突如、「都庁でのプロジェクションマッピングに2万人以上が訪れた」と発表されました。これに基づくと、プロジェクションマッピングが開始された2月25日(正式開催は26日)から3月12日の17日間で、1日平均で約1200人が訪れた計算になります。たしかに、そのような数値であることは推測ができます。

 

一方、3月5日の記事では、都の担当者は「オープンスペースであるため、カウントを行っていない」と回答したことについて運営面の未熟さを指摘していました。その際は、関係者へ再確認するとして、折り返しの連絡の後にも改めて同じ回答を得られたものです。おそらく2回目の回答は「電通ライブ」への確認によって得られたものでしょう。

 

少なくとも都の3月4日の回答時点では来場者数はカウントされてはいませんでした。このことから、3月12日の都議会で発表された約2万人以上のそれっぽい来場者数の”算出方法”には疑問が残ります。

 

そして、18億円の経済波及効果についても、訪れる人の飲食や宿泊による、消費額の具体的な根拠は示されていません。現地取材を通じて、来場者の約6割は訪日外国人旅行者であり、その多くはプロジェクションマッピングの開催時間前後に都庁の展望室を訪れている観光客の行動がありました。

訪日外国人の集客装置「展望室」

訪日外国人旅行者や、誘導スタッフ、警備スタッフに聞くと、展望室への訪問者の多くが、コロナ禍以前から人気のある東京観光ルートの定番スポットとして訪れているようです。そして、これらの観光客は、展望室の見学に訪れて、プロジェクションマッピングの告知ポスターやクチコミで情報を知った後、プロジェクションマッピングが開催されている広場へ足を運んでいるようです。

都庁プロジェクションマッピングの来場者
週末の初回19時回は特に見学者が多い(3/24)
都庁展望室待ちの行列
地上202メートルの展望室待ちの列(3/24)
都庁プロジェクションマッピングのポスターを見る来場者
展望室への導線でプロジェクションマッピングの告知を確認(3/27)
都庁プロジェクションマッピングのポスターを見る来場者
都庁展望室待ちの行列
観光客は1回目の投影後、展望室待ちの列へ(3/27)
都庁展望室待ちの行列
北展望室はワクチン接種会場のため南展望室のみ開放中(3/28)

また、プロジェクションマッピングが開催される19時~21時の間、都庁周囲では多くの団体バスが乗客を降ろして停車しています。何台かのバス会社の運転手からは、「東京観光のルートで都庁に来ているが、コロナ前からのことで、プロジェクションマッピングの開始とは無関係」という情報が得られました。

都庁周辺に停車中の観光バス
都庁周辺には停車中の観光バスが多い(3/24・27)
都庁周辺に停車中の観光バス
編集部は3月3日から28日までに、平日と日曜日の各2回、計4回にわたり会場を視察。

来場者数と経済波及効果のからくり?

現時点では、プロジェクションマッピングの観客の多くが訪日外国人であり、彼らはプロジェクションマッピングに関係なく展望室に訪れている可能性が高いようです。このため、12日に公表された2万人以上の来場者数は、実際には展望室の来場者数に基づくものとも推測されます。さらに、小池都知事が発表した18億円の経済波及効果は、プロジェクションマッピングそのものよりも、展望室を訪れた観光客の消費と多くの部分で重なります。新しい事業の成果を評価するならば、既存の市場データを置き換えるのではなく、新たに生み出された価値に焦点が当てられるべきでしょう。仮にプロジェクションマッピング事業のみの経済効果を計るのであれば、展望室を閉鎖し、来場者と経済波及効果を算出することが考えられますが、土台無理でしょう。

経済波及効果(統計局)
ある産業に新たな需要が生じ、その需要に対する生産活動が拡大すると、原材料や資材などの取引や消費活動を通じ、他の産業に次々と、水面に投げた石が波紋するように多方面へ影響を及ぼす。

 

これらの検証および推測は、プロジェクションマッピング事業に関する説明が不十分であるために生じる疑惑に対応するものです。2024年度には、新たに9億5000万円の予算が都庁のプロジェクションマッピングに割り当てられ、委託事業者の再選定が予定されています。小池都知事にはプロジェクションマッピング自体が悪者にされることがないよう、事業プロセスの丁寧な説明が求められています。透明性の欠如が続けば、2024年度も疑念を呼び、信頼を損ねる可能性があります。この点が改善されるかどうかは、プロジェクションマッピングの会場に足を運ぶ来場者の動機や満足度の向上にもつながるものです。

 

(エピローグ)やがて訪れる小池百合子総理大臣の所信表明演説において、東京の夜を代表する観光スポットに成長した都庁プロジェクションマッピングについて誇らしげに語る際、ようやくプロジェクションマッピングを中心に展開された小池劇場の幕が閉じることになるでしょう。

 

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