大阪府警は7月5日、東大阪市のワクチン事業での詐欺容疑で今年6月逮捕された近畿日本ツーリスト関西法人MICE支店元支店長の森口裕容疑者(54)と社員2名を再逮捕しました。3人は昨年3月までの業務で5億8900万円を搾取し逮捕されていましたが、その後9月までの半年でさらに3億5000万円を搾取していたことが判明しました。容疑者3名はいずれも支店で力のある50代のベテラン社員でした。
今年4月、近畿日本ツーリストが受託した東大阪市のワクチン事業の人件費での不正請求が発覚。その後、2020年から3年間に担当した公的事業2924件を検査し、同社は5月2日、16億円の過大請求の疑いを明らかにしました。大阪府や東大阪市、焼津市など16自治体で社員が過大請求を自覚していた疑義があり、他の70自治体では事務処理不備と説明しました。その後6月1日、過大請求を14.7億円に修正し、該当自治体への返納等について発表。その後6月15日、東大阪市の事案で3人が逮捕されました。
近畿日本ツーリスト親会社のKNT-CTホールディングスは6月15日、東大阪市事件の報告と謝罪発表以降、残る事案の調査報告は行っていません(再逮捕前の7/4時点)。編集部の取材に広報担当者は、「説明責任は果たす考えだが、個別事案は各自治体や警察関係者と協議中で事案により出せる出せないもある。適宜、説明を行う」とコメントしていました。今回の再逮捕を受け、今後、他の事案での情報開示と経営陣の態度に注目が集まります。
今回、業界を代表する旅行会社が、高い責任を果たすべきワクチン事業で不正を働きました。コロナ禍、多くの小規模観光事業者が苦境に立たされる中、大手旅行会社は公的事業の恩恵を受け、過去最高益を出したり、過去最高額のボーナス支給されたりなどの話も聞かれます。
KNT-CTホールディングスは、公式サイトでコンプライアンスやCSR・サステナビリティ、ESG・SDGsを紹介し、経営に社会責任を取り入れるブランディングに力を入れていました。しかし、今回の不正でその整合性の欠如が露わになりました。
コロナ禍の公的事業で旅行会社の不正が相次ぎました。大手旅行会社は2014年頃から、地方創生推進の流れに乗り、公的事業への参加を増やしました。今回のワクチン事業もその延長にあるとも言えるでしょう。
不正を行った旅行会社は謝罪会見で、再発防止やコンプライアンス強化に取り組むと発言しますが、その前に、日々店頭カウンターで顧客対応に汗を流しているスタッフが築いてきた会社の信頼のあり方を再考する必要があるでしょう。