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【記者会見】KNT-CTH米田社長が不正防止は社員の人間力と強調|不正を生む企業風土は誰がつくるか

KNT-CTホールディングスは、2023年9月20日午後の記者会見で、複数名の逮捕者が出ている近畿日本ツーリストの新型コロナワクチン事業における自治体への過大請求について、再発防止策と自治体との協議の状況について説明した。編集部はZOOMで視聴した。

近畿日本ツ―リストの不正な過大請求に関する記者会見

会見には、KNT-CTホールディングスの米田社長(中央)、小山専務(左)、近畿日本ツーリストの瓜生社長(右)の3人が出席した。まず、米田社が再発防止策の3つの基本方針として、「人(意識)の改革」を重要な軸として挙げ、これにより「業務の改革」「組織の改革」を実行し、不正を防ぐ企業風土づくりを行うと説明した。

 

次に小山専務から、具体的な施策について説明があった。「人の改革」では、社員の意識調査と意識状態の分析を通じたコンプライアンス改革の推進。経営陣のコンプライアンス順守や、社内コミュニケーション改革、グループ行動規範の制定、社員教育、人事構造改革などを行うことを説明。次に、業務フローやマニュアルの整備、公共団体との契約ガイドライン策定、契約書評価ツール導入などを行う「業務の改革」。コンプライアンス委員会の設置、経営陣の監督・執行機能の強化、社員の予算目標制度の改革などを行う「組織の改革」が説明された。

再発防止策は、数百億円レベルの公共事業に参画する企業として、当たり前のような施策が並べられた印象がもある。また、KNT-CTホールディングスが宣言している、サステナビリティやSDGs、ESGなど企業の社会責任の方針にも内包され、それが順守されていたら不正は起こらなかったとも言える。現代版の企業の社会責任は、”きれいごと”でもそのまま順守できなければ、SDGsウォッシュ(見せかけ)の烙印が押される(編集部)

 

再発防止策の説明後、瓜生社長から、自治体への不正な課題請求に関する進展について説明があった。現在も自治体との協議は継続されており、過大請求の規模は最大37自治体で最大約7億円となり、8月9日発表時点の50自治体で約9億円から減少した。「2億円の減少は、自治体と協議を進め、過大請求がないと分かった分」(KNT-CTホールディングス広報部)。なお、現時点、過大請求が確定した14自治体に3億6000万円が返金されている。

会見では、まず国民に関わる過大請求について説明し、その後再発防止策についての説明が望ましかった。配布された資料には、「株主・投資家の皆様をはじめお取り引き先および関係者の皆様を含む社会全体からの信頼回復に向け~再発防止に注力する」とある。自治体のワクチン事業で起きた不正であるが、国民や地域市民への謝罪が軽視されたようだ。これは会見主催者が、消費者側の近畿日本ツーリストではなく、常に株主を意識するKNT-CTホールディングスだからだろうか。しかし、今回の不正は近ツーで起きた。であれば、消費者への謝罪表明が第一になる。また、再発防止策の施策説明が長く、過大請求は後に付け足され、印象が薄められているようだった。ダメージを抑える危機管理広報のテクニックにより、不誠実さが現れることがある(編集部)

 

主な質疑応答

 

今後どのような事業を強化するか?
米田社長は、地域活性や学校事業を挙げ、「特に部活が有望で先生は教えられないMTBやEスポーツとか、これは学校側から依頼がある」、地域活性は「クラブツーリズムの強みを生かす」と答えた。
これまでグループ行動規範はなかったのか?
米田社長は、「今回初めて。これまでは企業理念とかそういうものがいろいろあって、社員に朝礼で唱和してもらっていたが今回のようなことが起きた」「会社は社会の公器。人として正しいこと。論語、武士道とか、人の道を守ることを社員に浸透させたい」と答えた。
不正の予兆把握の対策は?
米田社長は、「メールやチャットの監視システムで良いサービスがある。全社ではないが導入を検討している。ただこういうものは社員の同意を得る必要がある」と答えた。
東大阪市の過大請求事案の初公判で元社員が犯行を認めたことの受け止めは?
米田社長は、「今日は会見のために準備や移動で公判内容は知らない」と答えた。
瓜生社長は、「もともとホールディングスでITを担当した。今回の件は、私は”間接的には責任”がある。もし、ITが進んでいたら不正が防げていたのではないかとも思う」「従業員は儲けより、誠実な仕事が大事」と答えた。
検察が2019年度以前から水増し請求があった可能性を指摘したが、社内調査を行うつもりはあるか?
米田社長は、「今回の不正はコロナ禍、旅行部門の仕事がなくなり自治体事業に参画して起きた。2020年度以降3年の社内調査は行っているが、2019年度以前の調査は行う予定はない」と答えた。
各地での過大請求事案は組織としての不正ではないのか?
米田社長は、「組織的ということはない。それぞれ支店社員の判断で行われた」と答えた。全国紙記者による質問で(事前に質問が握られていたか定かでないが)、個々の過大請求事案が、組織的か社員個人の問題かという疑念について、この会見で結論付けておきたい意図を感じた。

不正を誘発する企業風土は誰がつくるか

米田社長は質疑応答で、不正防止には社員の「人間力」が重要だと強調した。具体的には「倫理」「自己統制力」「社会人関係性」「知性・教養」という言葉で説明した。

 

一方で、経営者層自身の責任や取り組みについて詳しい説明はなかった。なお、近畿日本ツ―リスト前社長は事件の責任を取り、8月31日付で辞職した。これにより、現経営者層の責任は一区切りがついたという判断とも考えられる。

 

米田社長は質疑応答で「組織的な不正ではない」と主張した。人の改革によって、不正のない企業風土が育まれるならば、企業風土が不正の原因になることを意味する。
企業風土は何か。それは、経営者や上層部が主導して形成される文化ではないか。社員は入社時から経営者や上司の指示や意向に左右され、社員自身が企業風土の形成者とる。

 

この観点からすると、今回の事案は組織的な要素を含んでいるとも言える。もちろん、経営者層が法的な罪に問われるわけではない。しかし、記者会見で経営者が率先して、4000人の社員の人間力を問う、センシティブな言葉を並べたことは違和感があった。

 

米田社長は今年3月、KNT-CTホールディングス親会社の近鉄グループホールディングスの社長就任が内定していたが、近ツーの課題請求が発覚して、現職にとどまった背景がある。なお、会見後半、米田社長は、「記者会見は、今後も定期的に行いたい。今回のことは多くの人に知ってもらいたい」と言った。

 

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