大阪万博の若手建築家プロジェクトのひとつ「休憩所2」の建設工事において、設計者の工藤浩平氏(工藤浩平建築設計事務所)と密接な関係を持つ「住建トレーディング」(秋田市)が、2023年11月の一般競争入札において4億2200万円で落札していました。工藤氏は2022年8月、「休憩所2」の設計者に選出されました。
この問題が浮上したのは、2024年8月26日にウェブメディア「日経クロステック」で、工藤氏が「休憩所2」のデザインについて説明する記事が掲載されたことがきっかけです。「パーゴラ」という建築技法を用いて750個の石を吊す奇抜な設計を披露され、その後、SNS「X」でセンスを問う声が上がるほか、建築基準法違反が指摘され、工藤氏は日経の記事が誤解を招いていると投稿しました。建築法上の問題が無い限り、デザインの良し悪しは人それぞれの主観が反映されるため、賛否論じられます。
一方、同記事内では、「工事や撤去などの建設費は、住建トレーディングが「4億2200万円で落札した。竣工は2024年12月を予定している」と説明され、「X」で工藤氏と住建トレーディングの関係性に疑念の声が上がりました。日経クロステックの記事(無料公開部分)ではその点には触れていません。なお、日経グループはTEAM EXPO 2025の協賛社です。
よい旅ニュース通信編集部が住建トレーディング公式サイトに掲載されている約60件の施工実績を確認したところ、2018年9月~2023年3月にかけて18件で工藤氏および同氏の建築事務所が設計を担当していることが確認できました。工藤氏が住建トレーディングの施工に携わってから、建築物の分野が広がり、デザイン性も向上し、同氏の実力と業務への貢献度が計られます。さらに、住建トレーディングの代表取締役は「工藤源聖」で同じ苗字を持つ人物であることが確認されました。
また、同社の東京支店の所在地が工藤浩平建築設計事務所の本店所在地と一致しました。なお、同事務所公式サイトでは、工藤氏が秋田市出身であることや、都内のほか秋田市内に事務所を設けていることが確認できます。編集部は、28日夕方に工藤浩平建築設計事務所に問合せ、住健トレーディングとの関係性を尋ねましたが、「担当者不在で回答ができない」と返答がありました。
大阪市公式サイト上の工事発注等の資料(2024年2月22日付・万博協会HPデータ)では、大阪万博会場内の20施設を担う若手建築家プロジェクトを含む、「休憩所1~休憩所4」「ギャラリー」「トイレ」などの建設工事の入札結果一覧が確認できます。その中で、「休憩所2」の工事入札において、設計者と密接な関係がある住建トレーディングが落札したことは、透明性と公平性、公共工事の一般競争入札の在り方の観点から疑念が生じます。
これまでに総工費の高騰や350億円の大屋根リング建設など、大阪万博に対してさまざまな疑念や不信感が広がっています。その結果、開催反対や好感をもてないとういう世論は依然として根強く、機運を醸成し、合意形成を果たすために投下されている国の予算(40億円以上)の一部が無駄になっているとも指摘ができます。
このような状況下では、入札プロセスにおける透明性、公平性、そして説明責任が一層求められます。そのため、主催者である経産省および大阪万博協会は、契約上法的に問題がなかったしても、疑念を抱かれる可能性のある事業者を入札プロセスから排除することで、機運醸成を妨げず、開催コストの削減に気を配ることが必要です。
29日昼、編集部が大阪万博の事業主催者である経済産業省に問い合わせたところ、「万博協会から報告は受けているが、事業者の入札プロセスに違法性は無いと考えている」との回答を得ました。また、事業者の入札プロセスに関して疑念があがっていることについて大阪万博協会に問い合わせたところ、「当面の間、回答は難しい」との返答がありました。
現時点、入札の疑念が浮上しているものの、主催者から入札プロセスの透明性や公正性についての具体的な説明は行われていません。このまま説明責任が果たされなければ、大阪万博協会や経産省、大阪府市ではなく、公正取引委員会などによる調査が求められる可能性もあります。
今年に入り、大阪万博会場の建設において、万博会場プロデューサー藤本壮介氏がデザインした総工費350億円「大屋根リング」や今回の「休憩所2」など、建築事案にの問題が続いています。建築家に対する批判の声がある一方、建築家自身による反論や、主に業界内から建築家を擁護し、現場や背景の事情を説明する声も聞かれます。
以前の取材で、藤本氏が「X」を通じて自身の正当性を主張する以外、反対意見をさかなでるような発信を行っていた状況について、万博協会のスタッフに業務発注元として指導を行わないのか尋ねた際、「現場から見ると、建築家たちは殿上人のような存在なので…」と漏らしました。
一方、公共事業で豊富な実績を持つ「建築界のノーベル賞」プリツカー賞受賞者の山本理顕氏は、大阪万博の不透明な事業プロセスに問題があると指摘し、藤本氏、大阪万博協会、経団連、大阪府市などの開催主体者を公然と批判しています。
大阪万博開催まで残り7か月、国が拠出した40億円超の機運醸成費。大阪万博開催プロセスにおいて、投じた予算に見合った効果が出ているのか、開催主体者からの説明が待たれます。