会計検査院は2025年1月29日、新型コロナの影響を受けた観光業界を支援する2つの旅行支援事業について、観光庁の予算執行に関する検査結果を公表しました。検査の結果、1285億円の未使用予算、紙クーポン廃棄による無駄、重要資料の未保存や都道府県の管理不備による不透明な運用など、複数の問題点が指摘されています。
![国土交通省と観光庁](https://edbwdx9yufp.exactdn.com/wp/wp-content/uploads/2024/07/0082a704b6b8db2501f7f1b5bd13023f.jpg?strip=all&lossy=1&ssl=1)
会計検査院の検査対象の旅行支援事業は「県民割支援」(2021年4月~2022年10月)および「全国旅行支援」(2022年10月~2023年5月)。これらの事業には総額1兆1193億円の予算が確保されていましたが、実際の支出額は9907億円にとどまり、1285億円が未使用でした。
特に、貸切バス利用を促進するために設定された「団体旅行枠」では、全国40都道府県で計724億円が執行されませんでした。要因として、観光庁が貸切バスだけでなく鉄道・航空機を含めた統計をもとに枠を設定したことが挙げられています。さらに、団体旅行枠から一般旅行枠への振替が可能である特例が観光庁から都道府県に十分周知されていませんでした。
また、観光庁は都道府県に交付する補助金の上限額や算定基準の資料を保存しておらず、会計検査院が予算執行の妥当性を検証できない状況であることも判明しました。
電子クーポン導入の混乱、3269万枚の紙クーポン廃棄
全国旅行支援の実施途中、観光庁は紙クーポンから電子クーポンへ移行。この変更により、すでに印刷されていた紙クーポン約3269万枚が廃棄される事態になりました。
電子クーポンの導入は突然の決定だったため、旅行者や事業者への周知が間に合わず、一部地域では混乱を招いたことも報告されています。
紙クーポンの不正利用の可能性について会計検査院に尋ねると、「電子クーポンへの移行と同時に紙クーポンの使用はできなくなったため、不正の発生は考えられない」と説明しました。
ワクチン接種証明やクーポン使用履歴の管理不足も発覚
一部の都道府県では、旅行者の居住地確認やワクチン接種証明の保存、使用済みクーポンの記録管理が不十分だったことも判明しました。これにより、会計検査院が事業の適正性を検証することが困難となりました。
観光庁の監督責任—「予算管理は都道府県任せ」
(以下、よい旅ニュース通信編集部調査)全国旅行支援の報告書や経費計算書は、2023年度末(2024年3月)にかけて都道府県から観光庁に提出されています。2023年12月、編集部が全国旅行支援を担当する観光庁観光産業課に対し、都道府県の報告書のチェック体制について取材したところ、「(全国旅行支援は)都道府県が主導する事業でため、観光庁は報告書を受理し、(目は通すが)予算清算を行うのみ」との回答を受けていました。
同じ時期、観光庁観光産業課の課長・庄司郁氏は、観光業界メディアの取材記事で「(旅行会社の)何度も繰り返される不正に憤りを感じる」と発言。さらに、「公金を使った不正は国民を裏切る行為だ」と強く批判していました。
観光庁の役割と責任の変化—管理体制の弱体化
2020年のGoToトラベル事業では、観光庁が「ツーリズム産業共同提案体」とともに事務局を担い、旅行者や旅行事業者と関わる形で運営していました。コロナ禍、観光庁は職員の業務負担が増えたり、HISグループなどの不正問題が発覚したりしたり、円滑な業務遂行が困難となり、2021年の県民割支援からは都道府県が運用主体となる形に変更されました。この変更により、観光庁職員の管理意識がさらに希薄化し、予算執行の不透明さや監督不足が今回のような問題を引き起こしたとみられます。