竹富島の温泉リゾート計画 聖地隣接に住民反発、事業者は「11m離した」と主張

沖縄県八重山諸島・竹富島で計画が進む温泉リゾート施設について、事業者の株式会社竹富島黒潮観光(竹富町)による約10カ月ぶりの「第6回住民説明会」が、2025年10月22日に開かれた。説明会では、事業者と住民の間で合意形成の糸口は見つからなかった。
同社は、関連会社でホテルグループを展開するピース企画(那覇市)が島内で運営する「ホテルピースアイランド竹富島」の近接地に、温泉リゾート施設を建設する計画を進めている。
計画地は島の聖域・真知御嶽(まちうたき)に隣接しており、住民の反発は根強い。御嶽は神や祖先を祀る神聖な場所で、地域の守護神を祀り、集落の祭祀や祈りの場として古くから受け継がれてきた。
島では御嶽を中心に年中行事や祭礼が営まれ、生活の精神的支柱ともなっていることから、開発がその静寂と信仰の空間を損なうのではないかと懸念する声が上がっている。
承認と規制と公平性 あいまいな竹富町
温泉リゾート施設の建設計画をめぐっては、2016年に沖縄県が温泉開発を認可し、2019年に竹富町の審議会が建設を承認した。この際、町は管理棟、レストラン、温泉施設の建築を許可したが、事業者が最も御嶽に近い「宿泊棟」の申請を失念していた。
その後はコロナ禍の影響もあり、目立った進展はなかった。
なお、2019年当時の町長は2022年2月に海底送水管工事をめぐる官製談合事件で収賄容疑により逮捕・起訴され、同年4月に新町長が就任している。
一方で、町は2022年10月、島の陸域全体を「竹富島準景観地区」に指定した。これは、竹富島の景観や自然環境を保全するために定められた「竹富町準景観地区条例」に基づくもので、建築物の高さや形状、外観などに一定の基準を設けている。
この指定により、温泉リゾート施設の「宿泊棟」については、新たに建築基準法上の建築確認が必要となり、町は現行ルールに照らして該当部分の計画を再検証している。
その中で、2023年12月に開かれた住民による竹富公民館の臨時総会では、反対165票、賛成33票、中立9票で温泉宿泊施設の建設反対を決議した。
そして、今回の第6回住民説説明会を前に、2025年9月の町議会で前泊町長は「公平な立場で判断する」「(住民説明会に)オブザーバー参加してもよい」と述べ、島の内情には踏み込まず、あくまで外から条例に基づいて判断する姿勢を示した。
竹富町は八重山諸島の有人9島にまたがる自治体で、役場は各島へのフェリーが発着する石垣島の離島ターミナル前に置かれている。前泊町長は竹富町出身ではなく、石垣市の出身であり、竹富島の生活実情については距離がある。
住民説明会で埋まらぬ溝
2025年10月22日に行われた第6回事業説明会には住民約80人が参加し、「御嶽隣接の開発は神聖な領域を損なう」として計画の白紙撤回を求める声も相次いだ。しかし、竹富島黒潮観光は「当初計画の35室から25室に客室を減らし、御嶽から施設まで11メートルの距離を確保した」と主張するなど、現行図面のまま建設を進める方針を示した。
説明会後、住民団体「竹富公民館」はSNSで、「竹富島黒潮観光が『真知御嶽の継承者から了承を得ている』と発言した」と指摘。その上で、「真知御嶽管理者の名誉をかけて当スレッドに転載いたします」と投稿し、継承者が2024年1月に竹富町長宛てに提出した「温泉宿泊施設建設計画への反対意見書」を公開した。
意見書には、「真知御嶽は島で最も神聖な場所であり、代々、立ち入りを厳しく制限してきた」「温泉宿泊施設の建設を断固として反対する」と記されている。
また、別の住民は、SNSで「今回の説明会を経て住民合意形成の実質的な履行がなされていないとの判断に至った。今後、町と事業者に対し、計画の白紙撤回を含む再検討を正式に求める方針」と投稿している。
2016年に沖縄県が温泉開発を認可して以降、関係者間での協議は断続的に続いているが、住民と事業者の溝は全く埋まっていない。
一方、現場では2017年に温泉掘削から始まり、2023年には敷地内で伐採工事が行われた。その後、雑木の不法投棄や霊石の破砕、無許可での電柱設置なども確認されながら、工事は着々と進行している。現在までに、管理棟やレストラン棟、温泉施設の建築がおおもね完了しているという。
リゾートホテル建設と竹富島憲章
八重山諸島・竹富島は周囲約9.2km、島民325人(2025年9月時点)の小島で、石垣島からの日帰り観光客が多い。計画が承認された2019年には約51万人が来島し、コロナ禍を経た2024年は約38万人となっている。
現在、宿泊施設は計11カ所あり、そのうちリゾートホテルは「星のや竹富島」と「ホテルピースアイランド竹富島」の2施設で、その他は民宿が中心となっている。
竹富島への大型ホテル進出をめぐっては、2012年6月に「星のや竹富島」が開業した。この敷地は外資系ファンドが取得した土地を星野リゾートが買い戻した経緯があり、開業にあたっては住民との合意形成を重ね、持続可能な島の観光への配慮が一定の評価を得ている。
一方、「星のや竹富島」開業の翌月には、竹富島黒潮観光の関連会社・ピース企画が「ホテルピースアイランド竹富島」を開業した。島の関係者によると、「星のや」の開業をめぐり島内が混乱していた時期に、十分な協議を経ないまま開業が進められたとの声や、現在も島のルールや慣習が尊重されていないとの指摘がある。
その後、島の名所・コンドイビーチでも、沖縄本島の不動産会社・株式会社RJエステートによるリゾートホテル計画(当初は2016年夏開業予定)が発表されたが、住民の反対を受け、現在は計画が停止している。ただし、この施設についても建設の認可自体は下りているため、住民は今も事業者の動きを注視している。
竹富島では1986年、住民が自主的に「竹富島憲章」を制定した。伝統的景観と文化の保護、自然環境との調和を目的とし、開発を抑制する住民の基本的な指針となっている。島の住人は「子どもの頃から憲章の理念のもとで育ち、その会話の中で島の暮らしを学んできた。意識せずとも憲章の理念が身体にしみついている」と話す。

なお、11月28日、竹富町のホームページでは「竹富島に住まわれる皆様および事業をされる皆様へ」と題したお知らせが公開された。そこでは、竹富島における建築・建造物の変更などに関するルールを示すとともに、手続きの際には「竹富島憲章」の考え方に基づき、関係機関との協議が行われる旨が記載されている。
このお知らせが温泉リゾート施設の問題を受けた対応かどうかについて、竹富町に尋ねると「そうではなくて、新たな住人や小規模事業者が島に入って初めて島のルールを知ることが多いため、その未然防止の意味がある」と説明した。
一方で、その内容は、現在進行中の温泉リゾート施設建設の問題にも重なり、島内で今まさに起きている状況を反映しているともいえる。近年、竹富島には新たに進出する個人や事業者も増えており、島のルールや環境への理解不足から、トラブルや摩擦が生じるケースがあるという。
「星のや竹富島」開業13年
2012年に星野リゾートが「星のや竹富島」を開業をきっかけに、島ではリゾート施設建設の動きが相次いでいる。約13年以上にわたり、住民は持続可能な観光のあり方を問い続けている。
星野リゾートは2025年4月、グループ公式サイトのSDGs特集に「開業から13年。“星のや竹富島”が島とともに歩み、目指す未来」と題した記事を公開した。ホテルスタッフの島への思いや、島民とともに歩む姿勢が紹介されており、「島の人々のために何かできるか」が原動力であるという。
いま、沖縄県八重山諸島の小島で進む観光開発に対し、島を守ろうとする住民たちにの姿がある。しかし、その現状は大手メディアではほとんど取り上げられず、沖縄を訪れる観光客の供給地である都市圏では広く知られていない。