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飛騨市が広葉樹のまちづくり(前編)|「飛騨産直市そやな」内覧会へ

6月中旬、7月1日(金)に開催される「飛騨産直市そやな」内覧会の取材案内を受け取った。
何か縁じみたものを感じて6月の最終日、今年2度目の飛騨古川に向かった。(写真:天生県立自然公園)

飛騨市の森林

 6月中旬、岐阜県飛騨市から農産物直売所「飛騨産直市そやな」が7月にオープンするというプレスリリースが届いて記事にした。飛騨と言えば今年4月、飛騨古川で鯉の放流を見学したばかりだった。

 

 プレスリリースでは「飛騨の広葉樹がもたらす飛騨の農産品を販売すること」。「内装に広葉樹を生かしていること」が説明されていた。どうやら飛騨市は、広葉樹をコンセプトにまちづくりに取組んでいるらしい。春の訪問では気づかなかったことだ。

 

北陸新幹線「富山駅」経由、在来線で「飛騨古川」へ

 春は東京から東海道新幹線「名古屋駅」を経由してバスで夜遅くに「飛騨高山」に入り宿泊。翌朝「飛騨古川」入りした。帰りは「飛騨高山」から「バスタ新宿」行きの高速バスを利用した。高速バスの使い勝手が良いことが印象的だった。

 

 今回、あえて別ルートを選んだ。6月30日朝、北陸新幹線「富山駅」を経由し在来線のJR高山本線で「飛騨古川駅」へ向かう。

 

 列車は「富山駅」を出発して40分ほどすると飛騨山脈に分け入ってゆく。北アルプスと呼ばれることが多いが、国土地理院が定める正式名称は飛騨山脈だ。

 

 列車は富山湾に注ぐ北陸屈指の大河「神通川」水系の「宮川」をなぞるように進んでゆく。とにかく車窓からの景色が素晴らしい。早朝出発して「富山駅」に到着後、岐阜県への移動を考えると寝不足を補うための時間になると思いきや、絶景を目で追うのに夢中になっていた。

 

富山駅から在来線で飛騨古川へ
神通川水系の宮川
富山駅から在来線で飛騨古川へ
車窓から続く景色

 

 実は東京から「飛騨古川」に行くのはこのルートが最も速い。今回は東京駅(7:20発)→富山駅(9:30着・9:53発)→飛騨古川駅(11:06)だった。この他、富山空港からレンタカーという手もある。岐阜県には飛行場が無いからかルートが色々ある。

 

 電車は70分ほどで「飛騨古川駅」に到着。早速、街の中心「まつり広場」に移動して、広場の傍らの「福全寺蕎麦」で腹ごしらえした。飛騨はラーメンで知られているが、近年、飛騨産そば粉の手打ちそばを提供する店が増えている。飛騨は水が良いから美味いはずだ。

 

飛騨古川駅
駅名のフォントとタイル表示に味がある
福善寺蕎麦の盛そば八寸
盛りそば八寸(1,100円)

 

 ちなみに、飛騨古川の街ではどこかからどこかまで歩いても最大10分位で気が楽だ。移動に焦ることが無い。

 

 昼食後、有名な「飛騨古川の白壁土蔵」を歩いた。鯉が泳いでいる瀬戸川は川というより水路のよう。結構、流れが強くて水面に躍動感がある。川の鯉たちは流れに負けないよう必死に泳いでいる。鍛えられているからどの鯉も大きくてムチムチしている。

 

飛騨古川の街
地図が点在しスマホに目を落とす必要が無い
瀬戸川の鯉
瀬戸川の鯉 約1000匹いるという

 

 当日は猛暑だったが、瀬戸川を眺めながら歩いていると涼しくなってくる。

 

広葉樹のまちづくり

 ここで、飛騨市の広葉樹について基本的な情報を共有しておきたい。
岐阜県の最北端に位置する飛騨市は総面積の約93%を森林が占め、宮川と高原川とその支流に沿って集落と農作物の耕地が点在している。

 

 森林の約7割がブナ・ミズナラなどの広葉樹で、その落葉が腐葉土になり雨や雪解け水の中に含まれ年月をかけて小川になり田畑に注がれる。腐葉土がミネラルを含む天然水となり、山菜や農作物などの恵みをもたらしているのだ。

 

飛騨市の広葉樹林
資料:飛騨市

 

広葉樹活用のアイディア基地「FabCafeHida」

 広葉樹活用方法のアイディアが生れるという拠点「FabCafeHida」を訪ねた。渋谷道玄坂の「FabCafeTokyo」を思い出す人もいると思う。その通りここは系列店だ。

 

FabCafeHida

 

 建物は100年以上歴史のある古民家を改装。中はカフェスペースとオーダーカウンター、一角に3Dプリンターが置いてある。裏手には木材が積み重なる大きな工房。宿泊スペースもあって1泊2日の木工体験プラン(9,800円税抜)を提案している。中の印象は一に木材、二に木材だ。とにかく木材の存在感が強い。

 

 当日はマーケティング担当の井上さんがテキパキと、施設を案内してくれた。傍らのテーブルに長髪で上下モノトーンファッションの木工デザイナーが居て淡々と図面を引いていた。

 

FabCafeHidaの3Dプリンター
FabCafeHidaのオーダーカウンター
FabCafeHidaの工房
FabCafeHidaの工房

 

 だんだん広葉樹のまちづくりことを理解できてきた。
 飛騨市は広葉樹の活用を考えた時、目の前に大きな課題が現れた。それは、飛騨の森林にあるブナやミズナなどの広葉樹は平均直径26㎝程度の小径木が多く、用途はパルプ・チップや薪にしかならないという評価だった。

 

 そこで、飛騨市は広葉樹を100年目線で育成していくこと。小径木に新しい価値を創造することを目標とした。事業サイクルが短い行政が100年目線と打ち出すのは意外だ。

 

 一方、現行政としては早く結果を出す必要もあるだろう。それが、「小径木に新しい価値を創造する」という取り組みだ。その拠点の一つが「FabCafeHida」になる。

 

 飛騨市は2015年、民間企業2社との共同出資で株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称「ヒダクマ」)を設立。翌年「FabCafeHida」をオープンした。出資企業の一社が東京のデザイン会社「ロフトワーク」だ。同社はデザインで全国各地のまちづくりを支援している。飛騨市では会社を設立して事業に取組む。出資率も50%以上。それだけ飛騨に惚れ込んだのだろう。

 

 ロフトワークは国内外クリエイターとのネットワークがある。そこで彼らを「FabCafeHida」に呼び寄せた。広葉樹について学んでもらい、アイディアを出し合い、試作品作りを繰り返した。その成果として、「SLANT_STOOL」や「Modern Cat Tree NEKO」という家具・什器ブランド、企業オフィス家具などを開発した。

 

 広葉樹の活用事例は他にも沢山出てきている。

 

 プロジェクトを開始して約7年、広葉樹を生かしたまちづくりの土台が確かにできてきた(明日の後編に続く)。

 

※記事のメイン写真は天生県立自然公園(飛騨市河合町)。広葉樹の種が多く、秋はパッチワークのように葉が色づく紅葉の名所。

 

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