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【コラム】電通案件で生じる顧客のレピュテーションリスクと対策―電通に始まり電通に終わる?

 今年前半、都庁のプロジェクションマッピング事業が、都の入札指名停止中であった電通のグループ会社に委託されたことが明らかになり、それを主導した小池百合子都知事に批判が集まりました。この現象を踏まえ、電通と取引を行う企業や団体が直面する「電通案件」とレピュテーションリスク(評判の毀損)について考えてみました。拙い文章ですが、ご笑覧ください。

電通本社ビル

 広告業界大手・電通が関与する案件は、SNS上で「電通案件」という独特な言葉でネガティブな評価を受ける傾向があります。そのことから、電通に業務を依頼する企業や団体には、レピュテーションリスクへの備えが必要であると考えられます。

 

 電通は、広告やエンターテイメント、スポーツイベント、さらには事業成長支援やAIサービスなど、多岐にわたる事業を展開する巨大企業です。その顧客は上場企業や官公庁、政党、地方自治体などのあらゆる業界が含まれ、国内外に影響力を持つ存在です。

 

 電通が属する持ち株会社である電通グループは、国内外に約800社のネットワークを持ち、売上高は約5.2兆円に達し、世界第7位の広告を中核とする企業グループとして、国内のライバル企業を圧倒しています。なお、国内第2位の博報堂DYホールディングスの売上高は約1.5兆円です。

■SNSや就職ランキングが示す電通のレピュテーション

 しかし、昨今、ネット上での「電通案件」への世間の風当たりは厳しさを増しています。例えば、SNSのコメントを分析するYahoo!リアルタイム検索で「電通」を検索すると、ポジティブな評価は9%に対し、ネガティブな評価が91%。さらに「電通案件」と検索すると、ポジティブな評価は8%に対し、ネガティブな評価が92%と結果が示されました(30日間の投稿/2024年9月16日午後調べ)。

Yahoo!リアルタイム検索の電通案件で検索
会社選び

 また、2024年9月2日に東洋経済オンラインが発表した「就活生1.5万人が選ぶ人気企業300社ランキング」によると、広告会社の中では電通が74位と低迷し、博報堂が4位、JR東日本企画が32位、大広が68位にランクインしています。なお、JR東日本企画の売上高は約540億円で、博報堂DYホールディングス傘下の大広の売上高は約1,400億円です。

 

 広告業界にとどまらず全業界を含めて圧倒的な知名度やケイパビリティ、経営力に勝る電通がSNSや就活生からのレピュテーションで苦戦している背景には、いくつかの要因が考えられます。

■「嫌電通」の真相-ネガティブイメージの要因

 トヨタ自動車との広告取引での不正請求や、サントリーPR動画のセクハラ演出、SNS漫画「100日後に死ぬワニ」のマーケティング手法、妖怪「アマエビ」の商標登録などへの批判。

 

 さらに、コロナ禍での持続化給付金事業における中抜き、家賃支援給付金事業での下請け企業への圧力、コールセンター業務の過大請求、東京五輪関連の一連の不祥事。そして、1991年と2015年に発生した、若手社員の過酷な労働やパワハラが原因となった悲劇的な出来事。

 

 最近では、電通が東京都と大阪府市から指名停止中にもかかわらず、グループ会社の電通ライブが都庁プロジェクションマッピングやプロ野球チーム優勝パレードの運営を受託していたことへの批判。

都庁のプロジェクションマッピングの見学者
【独自】「東京都プロジェクションマッピング事業」は電通ライブが受託-グループの電通は都の入札指名停止の中で(2024年3月5日)

 

 これら一連の問題により、電通を巡るネガティブな評価は絶えることがありません。また、音楽やドラマなどの韓流プロジェクトを推進していることを理由に、ネット上では「韓国資本に乗っ取られている」といった言説まで広まり、電通に対するネガティブなイメージを助長しています。

 

 その結果、法令にも倫理的にも問題のない、むしろ社会貢献に資する事業でも、電通の関与が確認されると「電通案件」と認定され、揶揄や皮肉の対象になるリスクが生じる可能性があります。それを理解してか、社員の中には電通所属を表に出さず、個人名のみで有益な活動を行っているケースもあります。さらに、電通が全く無関係であっても、電通っぽさを感じさせるコンテンツが「電通案件」と誤認されるリスクの予兆もあります。

 

 このような状況は、電通と取引を行う顧客はもちろんのこと、電通と直接取引していない企業や団体であっても、同じ制作会社を使い「電通っぽさ」が広告に現れると、レピュテーションリスクが高まる可能性も考えられます。なお、リスクマネージメントは起きた事件にあわてて対処するものではなく、考えうる予兆を洗い出し、対策を講じることです。

■頼られた「電通」からリスクを伴う「電通」へ?

 かつて、電通の顧客は「料金は高いが、電通に任せれば安心」という評価が一般的で、リスクを避けるために電通に業務を依頼していました。しかし、「電通案件」というキャッチーな言葉が広がるにつれ、今では電通と取引すること自体が新たなリスクを生じさせる可能性があると認識する必要があります。

DENTSU

 こうした背景を踏まえると、電通との取引においては、透明性を確保し、消費者の声に敏感に対応することが求められます。電通の提案や業務プロセスを、法令遵守だけでなく、道徳的・倫理的観点からも厳しく評価し、ブランド価値を守るための戦略を構築する必要があります。

■「電通案件」で生じたリスクは「電通」が対応?

 一方で、電通はグループ企業のPR会社と共にレピュテーションリスクに備える顧客や、リスクに直面した顧客に対して、メディアトレーニングや記者会見のサポートなど、危機管理コンサルティングを提供しています。つまり、攻めの「電通案件」で生じたリスクに対しても、電通グループで対応する守りのサービスを提供しています。

 

 社会のさまざまな場面に、次の「電通案件」が潜んでいます。企業や団体が電通と業務を行う際には、その取引が「電通案件」として注目されるリスクを念頭に置き、適切な危機管理対策を講じる必要があります。こうしたリスクに備えるためには、業務において「攻」だけでなく、「攻・守」両面での対応が求められます。結果として、電通の顧客は、複雑な業務に直面する中で、電通への依存をさらに深めていきます。

 

 電通グループのオウンドメディア「電通報」では、企業や団体の広報担当者に向けて、「鍛えよ、危機管理力」というタイトルのもと、さまざまな危機管理のノウハウを提供しています。

■小池百合子都知事再選と都庁プロジェクションマッピング

 今年6月20日、都知事選が告示されると、小池百合子氏は自身の分身「AIゆりこ」を登場させました。この人物をバーチャルヒューマン化するAI戦略もまた、電通のグループ企業が開発したサービスであると考えられます。そして、選挙戦で「AIゆりこ」が活躍し、小池氏が見事に再選を果たすと、都庁プロジェクションマッピングを批判する声が沈静化してゆきました。

2023年11月9日 日本経済新聞「仮想タレントを催事・ゲームに 電通デジタルがAI組織」(

 

 この事例は、「電通案件」における危機管理対策として、従来の「攻・守」ではなく、「攻・攻」の手法が有効であることを示しています。電通は、さまざまな批判にも動じず、透明性への疑念があってもなお、顧客に結果をもたらす姿勢を貫いているようです。この姿勢こそが、電通の顧客にとって究極のリスクマネジメントとして機能しているのかもしれません。

(了)

あとがき

 このコラムは電通の仕込みではなく、純粋な編集記事です。今年、あるプロポーザルに参加した際、電通のグループ会社に敗れたことに根に持ち、ささやかな皮肉を込めましたが、結果的に電通を評価する内容になってしまいました。

 

 読んだ方が、今後、「電通案件」に遭遇した際には、このコラムを思い出し、クスっと笑いながらSNSや飲み会で電通批判を楽しんでいただけたら、コラムを書く甲斐もあったというものです。

 

 あとがきを書いている最中にも、自民党から100億円以上が電通に支払われていたことや総裁選「ザ・マッチ」演出、さらには宮内庁の公式インスタ運用に手を出していることが報じられ、新たな「電通案件」が生まれています。今秋には衆院選、来春には大阪万博の開会式も控えています。

 

 電通が国政や上場企業をサポートすることで日本の国力向上に貢献しているのか、逆に損なっているのかを判断する具体的なエビデンスはありません。ただ、確かなことが3つあります。

 

 1つ目は、「日本が過去30年間にわたり先進国で唯一経済成長を遂げていないこと」。これには、電通が支援する顧客が日本経済の成長に寄与していない責任が含まれます。

 

 2つ目は、「報道の自由度ランキングでG7最下位の70位であること」。国境なき記者団の分析に指摘はありませんが、その背景には、電通が顧客とメディアの間に位置し、意図的か非意図的、あるいは忖度を含む形で報道を歪めている可能性があります。

 

 そして3つ目は、「電通の代わりを担える企業が存在しないということ」です。令和時代の現在、顧客にとって「電通に任せれば安心」という昭和・平成時代の信頼感は薄れ、「電通しかないから」と評価が低下している状況かもしれません。しかし、この状況下に「電通案件」のリスクが潜んでいます。

 

 「電通案件」のリスクに直面する企業や団体は、昭和から平成にかけての電通との成功体験に囚われず、電通以外を選ぶリスクを取るべき時代に差し掛かっていると言ええるでしょう。つまり、「電通案件」で生じるリスクとは、電通と取引する企業や団体自身の選択や判断が引き起こすものだと言えます。

 

 さて、あとがきが長くなってしまいました。最後に、電通さん、ありがとう。

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