2024年9月26日から29日まで、東京ビッグサイトで旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン2024」が開催された。初日から2日間は業界関係デー、週末開催の2日間は一般公開デーとして、多くの来場者が訪れた。
主催者発表によると、今年は昨年の70カ国を上回る80カ国の出展者が参加し、来場者数は約18万3000人と2023年大阪開催の約14万8000人を大きく上回った。来場者の内訳は、業界関係者デー約7万2000人、一般公開デー約11万1000人で、一般来場者は全体の約65%を占めた。
このイベントは、消費者に対し、地方自治体や観光協会が地域コンテンツをアピールする場である一方、旅行業者にとっても自社サービスをアピールしつつ、今年はコロナ禍に端を発した旅行業界の不正問題について説明責任を果たせる絶好の機会でもあった。
しかし、今年のEXPOでは、JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行、東武トップツアーズ、名鉄観光といった不正に関与した大手旅行会社が大きなブースを構えていたが、不正問題への反省や再発防止策に関する展示は見受けられなかった。
また、業界関係デーのセミナーでは、旅行業界の不正を振り返るプログラムは行われなかった。一方、弁護士による顧客送迎と白ナンバーや、主催者日本旅行業協会のコンプライアンス担当者による旅行業約款における取消料といった法律関連のプログラムは提供されていた。旅行会社がブースで展示を行わないのは仕方ないかもしれないが、主催者のセミナーでプログラム化することは十分に考えられることだ。
さらに、会場で配布された新聞「ツーリズムEXPOジャパン特集」には、主催3団体の代表者インタビュー(※)が掲載されていたが、旅行市場やEXPOへの期待などのテーマの中で、コロナ禍の就職希望者の減少や人手不足など旅行業界の課題に触れたものの、一切不正問題に触れるコメントはなかった。
※日本観光振興協会理事長の最明仁氏(元JR東日本常務取締役)、日本旅行業協会会長の高橋広行氏(現JTB取締役会長)、日本政府観光局理事長の蒲生篤実氏(元観光庁長官) |
ツーリズムEXPO広報事務局によると、新聞の特集記事は広告ではなく、新聞社の提案によるものだという。しかし、仮に記者が質問しなくても、インタビューイーとして不正問題に触れることはできたはずだ。その問題に触れなかったことは、その重要性を過小評価していると受け取られる。
旅行業界のリーダーならば、質の高いコンプライアンス方針を持ち、消費者に対して積極的に透明性を確保することが求められる。しかし、今回の特集記事ではこれを回避した。コロナ禍の不正問題は、就職希望者や人手不足の問題と比較して、業界の課題として軽いものなのか。
日本旅行業協会の高橋会長は、JTBの会長も兼任し、コロナ関連事業で公正取引委員会から排除措置命令や、奈良県での過大請求問題で訴訟を抱えている企業のトップだ。また、これまで日本旅行業協会が発表してきた不正問題に係わる公式見解を担い、誰よりも説明責任負う立場にある。しかし、今回のEXPOでは、その責任を果たす必要はないと判断したようだ。
不正に関与した業界や企業が社会的責任を果たすためには、問題に対して透明性をもって向き合い、消費者への継続的な情報提供が不可欠だ。その中で、消費者と直接出会う場における説明は重要だ。誰も見ない業界団体のサイトや、企業サイトのコーポレートページで謝罪テキストを掲載したり、関係者同士の会議で議論したりされても、世の中にはほとんど伝わらない。その状況で、消費者は不正問題に関与した旅行業者のサービスを知らずに購入してもいるケースもあるだろう(※)。
※2023年2023年12月9日【独自調査】2023年末生活者400人が振り返る「旅行業界」の不正問題(Q2参照) |
大手旅行会社4社に対する排除措置命令から約4カ月しか経たないEXPOの会期中、依然として多くの自治体で指名停止措置が継続している。しかし、旅行業界としては、不正問題について消費者に知られないことや、消費者が徐々に忘れていくことを期待しているようだ。
不正問題が発生したり、その責任が明らかになったりした時期に業界団体の責任者であり、現在もその職務にあるのであれば、在任中は選好みで説明責任の場を選ぶのではなく、多くの消費者と接する場があれば常に説明責任を果たし、退任するまで、再発防止について語り続けるべきでだろう。それは、常にインバウンドの重要性を説明していることと同じだ。
2020年に始まった新型コロナウイルスの影響により、旅行業界は当初大きな打撃を受けた。しかし、旅行業界を支援するためにGoToトラベルや旅行支援、ワクチン関連など多額の公的事業が実行され、多額の予算が投入された。この支援により、大手旅行会社は経営を維持することができたはずだが、その受益対象となる大手旅行会社の多くが不正行為に関わった。これらの問題は、数年や数カ月で解決するものではないだろう。