シリーズ第3回「よい旅⇌地元から通信」です。今回は滋賀県 豊郷町観光協会の野村さんから寄稿が届きました。豊郷町は琵琶湖東岸の小さな町。その昔、近江国を拠点に全国展開した商人は沢山います。
その中、豊郷が輩出したある商人の会社は今、財閥系が幅を利かせる総合商社業界で、非財閥としてトップを争い、野武士集団と異名を持つ企業。同社志願者やビジネスパーソンは豊郷に行けばヒントを見つけらるかも?(編集部)。
(写真: 豊郷町のシンボル「うさぎとかめ(豊郷小学校旧校舎群にて)」)
はじめに
豊郷町は滋賀県琵琶湖の東、県北中部の犬上郡に属する県内で一番小さな自治体です。西隣に彦根市、東に南北に走る雄大な鈴鹿山脈を臨みます。町域全体が高低差の少ない平らな環境であり、活動しやすい「まち」です。町の中心を江戸時代に整備された「旧中山道」が通り、町南端で鈴鹿山脈を源流とする宇曽川と交差する地理的環境のため、古くから交易地または中継地としてにぎわっていました。
豊郷は近江商人のまち!
豊郷町は滋賀県東近江市五箇荘などと同じく近江商人の町として知られています。北半の豊郷区と南半の日栄区に区分され、中世に日栄区から「枝村商人」と呼ばれる商売人たちが登場しました。彼らは岐阜県の美濃紙を取り扱い、京都へ卸していました。北半の豊郷区からは「近江麻布」など織物を取り扱う商人が生まれました。その筆頭といえるのが、世界的商社へと導いた伊藤忠商事・丸紅の創設者 伊藤忠兵衛氏です。また幕末の頃に「木綿王」として一代で財を築かれた薩摩治兵衛氏とその孫で日本とフランスの文化交流に心血を注がれたバロン・サツマ(薩摩次郎八)氏の名前もぜひ覚えてくださいね。
豊郷出身の近江商人ゆかりの館は今も旧中山道沿いに現存し、豊会館・伊藤忠兵衛記念館・豊郷小学校旧校舎群・薩摩治兵衛記念館として観光客をお迎えしています。「滋賀県で一番小さなまち」ですが、内包された宝物はどこにも負けない魅力に溢れています。今回、いまも近江商人の心が息づくまちで日本家屋に泊まり、心躍る夏おすすめの過ごし方をお届けしたいと思います。
たくさんの魅力を放つヴォーリズ建築の校舎を訪ねる
2021年11月から始まった朝の連続ドラマ「カムカムエヴリバディ」に白い豪華な建物が登場していたのを覚えてらっしゃるでしょうか?ヒロインが慣れない自転車を操って一生懸命駅までいとしい人を追いかけてきたあのシーンです。
シンメトリーの建物で、前庭には正面入り口につながるロータリーが敷かれ、芝生が生き生きとまぶしい。出演者たちの素晴らしい演技と相まって印象深いシーンでした。あのシーンを撮影されたのが、国登録有形文化財「豊郷小学校旧校舎群」です。近江商人で丸紅商店の専務を務められた古川鉄治郎氏の寄付を受け、アメリカ人建築家ウイリアム・メレル・ヴォーリズ氏が設計した学校で、当時最先端の建築技術で建てられ、最高の教材をそろえたことから「白亜の教育殿堂」「東洋一の小学校」と呼ばれました。
また、人気アニメ「けいおん!」の舞台ではないかと言われ10年以上たった今も国内外から作品を愛するファンが多くいらっしゃいます。近年はレトロ建物巡りやロケ地巡りで来たとおっしゃるお客様も増えてきました。建築ファンの間でもヴォーリズ建築は人気がありますし、氏が手掛けられた中で公立の小学校というのは大変珍しい存在です。
校内に入ってみましょう、洗練された外観とは打って変わり、内観はふんだんに木が使われています。だからか温かい雰囲気に包まれています。長い廊下に礼拝堂のような講堂、操作性・安全性も考慮した設計に、訪れた方は「本当にここが町立の小学校ですか?」と驚かれます。さらに昔の図書館にはファンから寄贈されたアニメのグッズが所狭しと展示され、さながら博物館のようになっています。
ヴォーリズ建築の特徴の1つは窓が多く、そして大きいことです。四季それぞれの光が屋内に差し込んでくる様は絵になりますよね。他にそこに住む住人の未来を考えた設計がなされています。ここは小学校ですので、ドアノブの高さや階段のステップの高さなど児童の体格に合わせて作られています。学校機能としてはすでに退いていますが、建築・芸術・近江商人の心などなど…ここには書ききれないほどの魅力があふれています。過去~現在~未来の豊郷の姿を映すランドマークとして皆さんをお迎えしています。
小さな人気者「とよ坊かぼちゃん」
夏になると町名産「とよ坊かぼちゃん」という小さいですが、とても甘いかぼちゃが収穫されます。収穫後1個ずつわが子をいとしむように綺麗に磨き上げられます。まるで珠のような特産品です。これをホイルに包んでBBQの炭火に入れ、ゆっくりと蒸し焼きにするとこれだけで「まるでスイーツ?」というぐらい驚きの逸品ができあがります!
電子レンジでチンしても同じようにおいしくいただけますよ。
豊郷小学校旧校舎群・酬徳(しゅうとく)記念館に入っている観光案内所では、このカボチャを使ったプリンやパンどらを販売しておりますので、ぜひ味わってください。
近江商人の生活を感じる
豊郷町八目、旧中山道に面して「伊藤忠兵衛記念館」があります。初代伊藤忠兵衛氏の旧宅であり、2代目忠兵衛氏が育った家です。近江商人の住居がそのまま大切に守られ、両氏の愛用品や当時の会社の写真などが展示されています。
玄関を入ると土間になっており、正面次間が台所。さらに奥には漬物小屋があります。右手には執務台が置かれた店の間、中の間、仏間と続きます。重厚感たっぷりの暗褐色の柱が家を支える伝統的な日本家屋です。
この旧宅から荷物を大阪の本社に運ばれていました。商品だけでなく、店員の日用品も送られていたそうです。これを取り仕切っておられたのが初代忠兵衛氏の奥さまの八重さんです。八重さんのすごいところは、店員を教育し、そこから適性を見極め、的確に配置されたそうです。八重さんがおられたからこそ忠兵衛氏も安心して大坂で仕事に打ち込めたことと思われます。その教育論、非常に興味があります。
館内で興味深いのが、手洗いシンクの底面に並べられたガラスの棒です。今は蛇口から水は出ませんが、ガラス棒の隙間を水が通り抜ける際、サラサラと静かであったと思います。
洗練された生活の工夫です。
屋敷の奥から広い中庭に出られます。縁側に座り庭を眺めているとゆったりとした贅沢な時間に包まれます。
一歩敷地に入ると旧中山道を走る車の音はほとんど聞こえず落ち着いた雰囲気に変わります。伊藤忠兵衛ご夫妻も忙しい合間にこの縁側に座って移ろいゆく季節を感じながら会話を楽しまれたのではないでしょうか?
豊郷の近江商人が持っている特徴の1つに郷土への深い恩返しの精神があります。
特に顕著なのが「3惚れ」の格言です。忠兵衛氏の「在所に惚れよ、仕事に惚れよ、女房に惚れよ」、薩摩治兵衛氏の「土地に惚れ、稼業に惚れて、妻に惚れ、人より少し勉強せよ」といった名言が残されています。質素倹約に努め、次世代の人材を育成する。両氏ならびに豊郷小学校旧校舎群を寄付された古川鉄治郎氏もこれを体現されたといえます。
「暮すように泊まる、遊べる古民家」へようこそ!
旅館やホテルも良いですが、古民家に泊まってみるのはいかがですか?
郷愁の旅心が刺激されたあなたにおススメしたいのが、2021年に豊郷町吉田区にオープンした「ゲストハウスおむすび」さんです。豊郷町内でも数少ない茅葺き屋根の一軒家を改修した趣のある宿泊施設です。
もともとは地元有志「NPO法人とよさとまちづくり委員会」と滋賀県立大学「とよさと快蔵プロジェクト」が2014年に改修を手掛けたのが始まりです。
迫力のある大きな梁(はり)が屋根を支え、高い天井が風を分散させてすごしやすい環境を作っています。ゆったりとした共用スペースにキッチンも完備されていますので、庭でBBQもできますし、星空を楽しみながらお酒のグラスを傾けるのも贅沢な時間です。
管理者さんのおススメは信楽焼のバスタブだそうです。たっぷりお湯を張って身体を癒してください。
この吉田区も昔ながらの風情が残っています。近所を散策してみましょう。
ゲストハウスの近くには老舗酒造「岡村本家」さんがあります。酒蔵見学や試飲もできますし、伝統の技術をもって作られるお酒は必見!
「岡村本家」さん横の路地を入っていくと右手に「Barタルタルーガ」というお店を発見できます。滋賀県立大学の学生さんが運営されているお店で、週替わりのパスタメニューが楽しいです。お店オリジナルドリンクを傾けながら近所のおなじみさんと、たわいのない会話も楽しいですよ。ご興味ある方はタルタルーガのインスタグラムをチェックしてください。
6月後半になると豊郷もじっとりとした空気に変わり、息をするたびに喉にも暑さを感じるようになってきます。日本人にとってもイヤな季節ですが、自然は私たちに癒しの時間をプレゼントしてくれます。雨が降った次の日には近所の小増川にホタルが飛び交い始めます。タイミングもありますが、20時頃には川辺がホタルの妖光に包まれます。ときおり身体に止まったりするのですが、なんともいえない感動してもらえると思います。
夜のお散歩コースにいかがですか?
ゲストハウスの朝食は、ご近所の製菓店「きょうかどう」さんから届けられるおいしいパンをどうぞ。「おはようさん!よう寝れたか?朝食のパン持ってきたさかい、ぎょうさん食べてや。」明るく元気な声がうれしいです。
今回、夏の豊郷を舞台に日本家屋に泊まるというおすすめの1つをご紹介しました。
四季それぞれ魅力的な時間が皆さんを迎えてくれます。
どの季節の姿が一番良いか、ぜひお越しいただいて体験してください。
何かありましたら、私たち豊郷町観光協会にお気軽にお声がけください。
皆さんのお越しをお待ちしております。
ありがとうございました。
文章:野村 惣(豊郷町観光協会) 観光協会の事務局員として観光推進、企画運営、観光案内所運営など豊郷町の観光振興に関わる事業に携わっています。昔から歴史が好きで、町民さんから町の歴史の話を聞くのを楽しみにしています。事務局みんなで豊郷の眠っている魅力をどんどん発信します。 |