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【地元から通信】福島県の「ホープツーリズム」-逆転発想から生まれたツアープログラム

「地元から通信」シリーズ第10回です。今回は、福島県浜通りエリアの「ホ-プツーリズム」について福島県観光物産交流協会の八巻さんの寄稿をお届けします。日本全国には自然や歴史文化、グルメなど選ぶのに甲乙つけがたい観光資源は沢山ありますが、福島県の震災の足跡は世界で唯一、ここにしかありません。そこから何を感じるのか?分かりやすく一気に読める文章です。ぜひ、一読ください。(写真:震災遺構 浪江町立請戸小学校全景)

福島県ホープツーリズム震災遺構 請戸小学校

▼世界で唯一、複合災害を経験した福島県でしか得られない新しい学びのスタイル

みなさんは「ホープツーリズム」というツアープログラムをご存じでしょうか。
世界で類を見ない 「複合災害(地震・津波・原子力災害・風評被害)」 を経験した唯一の場所、福島県。
ホープツーリズムは、複合災害の事実、教訓、復興への挑戦から得た学びから、これからの 持続可能な社会・地域づくりを探究・創造 するツアープログラムです。まさに福島オンリーワンの新しいスタディツアーです。

 

▼ホープツーリズムの効果的な視点3つの柱

一般的に「震災学習」として、一括される被災地をめぐるスタディツアーですが、このホープツーリズムで必要な3つの視点は次のようにまとめられます。

① 見る:施設見学、フィールドワークからありのままの姿を体感

復興に向け確かに歩み出している地域、持続可能な未来を担う新しい取組が始まっています。一方、長年の避難指示による地域への影響を感じる街並み、避難指示が継続中の地域…。報道だけでは伝わらない“光と影”。その光景が、福島の「今」です。

震災遺構 浪江町立請戸小学校内部の様子
震災遺構 浪江町立請戸小学校内部の様子

 

② 聞く:さまざまな立場・分野で復興に“挑戦”する人々との“対話”

震災、津波、原子力災害、風評…未曽有の困難の中で、それでもなお前へ進もうと果敢にチャレンジする人々が、福島にはたくさんいます。そうした人々を本ツアーでは「復興に向けて果敢にチャレンジする人々」と呼んでいます。チャレンジをし続ける人々との対話から、多くの刺激や気づきを得ることができます。

福島県ホープツーリズム
地域の人々との対話の様子

 

③ 考える:震災・原子力災害の訓練を未来(社会・日常・自分自身)にどう生かすか

まとめのワークショップでは、震災・原子力災害により顕在化したさまざまな社会課題(人口減少、高齢化、地域の衰退、エネルギー問題等)は「福島だけの問題」ではなく「日本社会や地域が抱え、解決すべき問題」であるという視点に立ち、自分たちがどのような未来を創っていきたいかなどについて議論します。

福島ホープツーリズムのワークショップ
「自分事化」として考えるワークショップの様子

「福島のためになにができるか」かというツアーではなく、「福島からなにができるか」。持続可能な未来づくりのために「自分事化」を促すことが、あの日、世界で初めての複合災害を経験した福島県だからこそできることだと言えます。

▼フィールドパートナーとともに「体験的な学び」を実現

東日本大震災および原子力災害伝では、直接的な被害に加え、長期化する避難生活や風評被害などによる間接的な被害が色濃く、事象そのものが複雑であると言えます。ただし、それらは(関係があり)、ひとつひとつがつながっている。物事を多角的に捉えて、つながりを見つけることが、新しい社会を築く中で必要な視点であり、ホープツーリズムではその視点を育みたいと考えています。

 

そのサポートを行うのが「フィールドパートナー」と呼ばれる存在です。フィールドパートナーはツアー中のアテンド、ファシリテートを担当。学びの振り返り(リフレクション)や、ワークショップなどを通し、中立・客観的な立場 から、参加者とともに、学びの成果へと導く総合案内人です。主に、現地で地域づくりや地域振興に携わる人々がその役割を担い、ともに学びに向かう仲間としてツアーを供にします。

 

具体的な役割としては、情報のインプットとアウトプットのサポートです。現地を見聞きするなかで、震災・原子力災害、復興に関する情報を伝達し、施設見学や地域の人々との対話後の情報整理と補足説明をサポートすることで、ツアー参加者の論点の明確化、多様な視点へ展開を促します。さらに、場に合わせた問い立てや介入により、参加者の探究心や学びに向かう力を引き出し、より深い学びのプログラムの実現を目指します。

▼コロナ規制緩和後、さらに求められるのは「福島だからこそ」

ホープツーリズムの活用シーンは、主に学校行事(修学旅行、勉強合宿)や企業研修。コロナ禍では旅行業界も大きな影響を受け、規制が緩和された今でも大きな影響を残しているのは、急速に進んだオンライン化でした。研修等で現地を訪れる必要性が希薄になったと言えます。

 

ここで求められるのは「福島だからこそ」の魅力でした。ここ数年は「なぜ、福島なのか」「福島だからこそできることはなにか」を見つめ直す機会となりました。ホープツーリズムではさまざまなコンテンツ(施設やフィールド)を用意し、多くの人々との交流を交わします。

 

とくに、東京電力福島第一原子力発電所や中間貯蔵施設の入構見学は、福島にしかないものであり、さらに、そこに現地の人々との対話を交えて、思考を深め、今後の自分自身の未来を考えることが、ここでしか実現できないホープツーリズムの強みだと言えるでしょう。苦しい局面があったからこそ、気づいたホープツーリズムの強みがありました。

双葉駅周辺_屯所
時が止まったままの双葉町消防団屯所の時計
福島ホープツーリズム大平山霊園
大平山霊園からのぞむ浪江町請戸地区の風景

▼大切なことは「なにを知ったか」よりも「どう感じたか」

参加者にとっては、福島を訪れて、初めて知る事象もあることでしょう。ホープツーリズムで大切にしてほしいことは、それらを知り、なにを感じたか、です。
心が動いた瞬間こそが、探究心を揺さぶられ、新しい気づきを得られる瞬間。
ツアーの参加者にとっての非日常が福島の日常です。その差から参加者が知ること、感じることは膨大なインプットになり、その中でこれからの生活に生きるヒントや教訓があります。

 

参加者ひとりひとりにとっては一度きりかもしれない場です。このツアーに答えは必要ありません。モヤモヤを持ち帰り、考え続けたいテーマを見つける。その「きっかけ」を発見できる場でありたいと考えています。

 

〇 震災後の協働モデルとして

ツアー参加者の満足度は重要ですが、一方で再生・創生を続ける地域への貢献も重要な視点です。このホープツーリズムの取組自体が、地域にとって前向きなものになるよう、ともに作り上げていく必要があります。
そのために、県内コンテンツの開拓はもちろん、フィールドパートナー等の人材育成を行い、継続した受け入れ体制を整えられるように取り組んでいます。

 

また日本中、そして世界中で起こりうる災害からの復興の一つの軌跡として、地域と連携しながら前進するビジョンは、協働モデルとして、地域やこれからの社会に貢献・還元できることだと信じています。

 

2016年に発足したホープツーリズム。2022年には過去最高の1万7806人の参加者を記録しましたが、まだまだスタートしたばかりです。
これからも東日本大震災および原子力災害の記録と記憶を伝え、これからの社会づくりに貢献できる学びのプログラムとして深化させていく必要があります。

 

世界で唯一のフィールド、福島県でみなさまとともに学べることを期待しております。変化し続けるこの地域で、お待ちしております。

 

〇 ホープツーリズムへの参加

(公財)福島県観光物産交流協会では、日々変化する復興状況や現地の最新情報等をご案内しています。お気軽にお問い合わせください。また、旅行会社様を対象に、団体旅行のワンストップ窓口として幅広く各種お問合せに対応しています。

 

文章:八巻 久美(公益財団法人福島県観光物産交流協会 ホープツーリズム・教育旅行推進部ホープツーリズムサポートセンター)

2023年5月に開設したホープツーリズムサポートセンターに勤務。
フィールドパートナーの育成事業など、ホープツーリズムの受け入れ体制の充実化や、現地情報の収集と案内に従事しています。ひたすらにホープツーリズムがすき。
サポートセンター開設に伴い双葉郡に移住し、現場で地域や来県者の皆さまに接するうれしすぎる日々を送っています。
誰のためにホープツーリズムを推進するのか。
“これからの未来のため”それのみ!

 

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