観光ツアー中の事故が続く中、JTBやクラブツーリズムの情報開示のあり方が問われます。2024年10月24日にJTB主催のマレーシア横断ツアー中に発生したバス事故について、同社が公式サイトに掲載した「事故のお知らせ」がその後削除されていたことが確認されました。
このバス事故では、70代の日本人女性1名が死亡し、負傷者が出ています。事故の翌日である10月25日、JTBは記者会見を開き、社長の山北栄二郎氏が事故の概要説明と謝罪を行いました。同時に、JTB公式サイトのコーポレートサイトには、お知らせ「2024年10月24日に発生したマレーシアのバス事故につきまして」と題する文章が掲載され、事故発生についての情報が公表されました。
しかし、12月9日によい旅ニュース通信がJTB公式サイトを確認したところ、文章の見出しとともにサイト内から削除されていました。
企業の公式サイトは本来、情報を大量に保存可能であることが利点です。しかし、重大事故の発表間もなく公式サイトからその情報を削除することは、企業の広報対応として考えにくいことです。特に、コーポレートサイトに掲載される情報は、旅行商品のセール情報とは異なり、長期的な公開が期待される性質のものです。
事故情報の削除-JTBの透明性に疑問
JTB広報部は削除の理由について、「事故発生の周知する目的であり、周知が達成された」との認識を示しました。書類の削除は、経営層も関与する社内会議で決定されたとのことで、反対意見は出なかったのか問うと、「会議内容は伝えられない」と言いました。
さらに、記者会見後、新たに得られた情報の公表について質問すると、「事故は地元当局の調査に任せていて予定はない」とし、「被害者およびご家族に誠意をもって対応している」と述べました。
JTBは2022年に策定した「コーポレートガバナンス基本方針」で、「経営責任と説明責任を果たすことを含め、健全性、透明性、効率性の高い経営体制の確立に努める」宣言しています。しかし、今回の削除対応は、ステークホルダーへの説明責任や透明性の確保に課題を残す結果となりました。
人気番組「カンブリア宮殿」出演のタイミング
JTBは12月6日、本日12日夜に放送されるテレビ東京系列の報道ドキュメンタリー「カンブリア宮殿」で、山北社長が出演し、JTBが特集されることを発表しました。
番組のテーマは「コロナから復活!旅行会社じゃない!?JTB大進化」。山北社長がスタジオで、国内旅行の回復やインバウンド需要の急増を背景に、同社の戦略や経営改革について語る予定です。
カンブリア宮殿は、企業にとってPRの場として影響力のある番組であり、今回の放送を通じてJTBの公式サイトへのアクセス増加が見込まれます。その一方で、番組出演と事故情報の削除の時期が重なる結果にもなり、同社の広報対応への疑問が浮かびます。
クラブツーリズムは「死亡者」の有無が掲載基準
JTBのマレーシアツアー中のバス事故と同じ10月、近畿日本ツーリストグループの旅行会社「クラブツーリズム」が主催するトルコのバスツアーで死亡事故が発生しました。さらに、12月9日には岡山県でのバスの横転事故が発生し、2名が骨折する事故となっています。
クラブツーリズムでは旅行予約サイト及びコーポレートサイトで、トルコの死亡事故に関するお知らせが掲載されています。しかし、岡山県のバス横転事故に関する情報は掲載されていません。この対応についてクラブツーリズムに確認したところ、「死者の有無が掲載基準である」との説明がありました。
岡山県の事故も消費者に情報を提供する必要はないか問うと、「記者会見を行い、事故を起こしたバス会社には運行を委託しない」とし、質問に対しては、「ひとつの意見として受け止める」と答えました。
クラブツーリズムの親会社KNT-CTホールディングスはグループ企業の「コンプライアンスポリシー」において、「自己責任原則に立って、すべてのお客さまとフェアで透明なビジネスを行う」と宣言しています。
観光庁の見解
JTBとクラブツーリズムの情報開示の姿勢について観光庁に聞くと、「旅行業者には旅行業法に基づき、旅行者の安全確保について指導している。しかし、事故後の情報開示については、旅行業法に定められておらず、企業の判断に委ねられる」との立場を示しました。さらに問題点を理解できるかと問うと、「それは分かりますが」と答えました。
観光庁による旅行業者への指導や監督は旅行業法に基づいて行われるため、事故情報開示や透明性確保においては各社のガバナンス方針や広報姿勢に依存せざるを得ません。その結果、消費者の「知る権利」が十分に守られない可能性が生まれます。
透明性確保の課題とその重要性
旅行業界では、情報の非対称性が命に関わる問題に発展する可能性もあります。そのため、透明性の確保は企業にとって不可欠な責任であり、特に重大事故に関する情報の公開は、消費者の信頼を築く上で極めて重要です。
今回の両社の対応には、都合の悪い事案を隠しているかのような姿勢が見受けられ、消費者視点の欠如が指摘されます。今後は、インターネットの特徴である保存性を活かし、透明性を重視した広報マインドを養うことが求められるでしょう。