現在、熊本県では2022年度の全国旅行支援事業「くまもと再発見の旅」において、熊本市の旅行業者「TKUヒューマン」が販売した旅行商品で助成金不正受給と熊本県幹部の見逃し指示の疑惑が浮上しています。
TKUヒューマンは、フジテレビ系列テレビ熊本の子会社の人材派遣会社で、旅行事部門があります。報道によれば、TKUヒューマンは2021年10月~翌年5月にかけて販売したタクシー券付きの日帰り旅行商品について、助成対象外であるにも関わらず、約2000万円を不正受給したとされています。
この旅行商品は利用者がタクシーに乗車する際に発着地が同一地点であることが条件でした。しかし、TKUヒューマンは利用者の発着地確認を怠ったり、タクシーを利用しなくてもよいと案内したりなど、不正の疑いが持たれています。
不正疑惑は9月7日、関係者が弁護士を通じて県警記者クラブに公益通報したことで発覚しました。通報の件名は「熊本県旅行助成事業の不適切な運用に関する県幹部の見逃し指示につきまして(通報)」で、複数の熊本県幹部が担当課長にTKUヒューマンの不正を見逃すよう指示したとされています。さらに、県幹部の音声データとして「もうよかろ」「ミリミリ詰めるか」「県の決めようだろ」という発言があると説明されています。このため、担当課長は問題を指摘せず、不正受給が隠される結果となりました。
通報者は第3者調査機関による調査を求めています。また、調査メンバーには県職員や観光連盟、旅行支援事務局のJTB熊本支店などを含めないよう意見を示しました。そこには、通報者が県の観光事業に関与している関係者への不信感が現れているようです。
公益通報の翌日8日、熊本県の蒲島知事は報道陣に対し、自身の関与を否定し、関係者に対し「調査と事実確認を行うよう指示した」とコメントしました。しかし、その後12日、知事は担当課に対し第3者調査機関の設置を指示しました。そして13日には、知事は再び「第3者調査機関を早々に設置する方向で検討している」と表明しましたが、「県庁内できちっと自分たちでも、第3者委員会にかける前にしっかり精査することは大事」と話し、第3者に任せる前に関係者間での調査を強調しました。関係者間での調査については、内部で何らかの調整が行われるかもしれないという、疑念が生じます。
公益通報後、熊本日日新聞による第一報の後、地元メディアはこの疑惑を継続的に報道しています。一方、TKUヒューマンの親会社であるテレビ熊本(TKU)は13日に初めて報道しました。しかし、編集部がテレビ熊本公式サイトの熊本のニュースを確認したところ放送動画が公開されていないことが分かりました。編集部がテレビ熊本に問い合わせたところ、報道は「公式な知事会見を待ち、13日になった」と説明されました。また、「通報者との連絡方法がメールに限定(※)されていたため、コミュニケーションがうまくいかなかった」とも説明されました。さらに、放送動画は「配信先の外部メディアのコメント欄が荒れる可能性があり、今回は見送られた」と事情を聞きました。
(※) 編集部が通報者の代理人弁護士に連絡と取ると、「質問等はメールで限定にしていて、回答等は時間がかかる」と聞きました。 |
なお、テレビ熊本は2016年~2018年にかけて、熊本城の修理費などにあてる文化財復興基金として、熊本県に総額1億円を寄付しています。
19日、編集部が今回の疑惑についてTKUヒューマン旅行部の担当者に聞きました。担当者は、「該当する旅行商品は、事前に県と事務局(JTB)確認を受けて販売された。ただし、これ以上は、熊本県の調査結果が出るまで、何もコメントできない」と言いました。
13日蒲沢知事が発表した、県庁内での調査結課や第3者調査機関の設置・調査に関する進捗や結果については、今後、知事からの早急な説明が待たれます。
各都道府県が実施責任を持つ全国旅行支援事業
「全国旅行支援」は、観光庁が「新たなGoToトラベル事業」で計上した1兆3238憶円の予算を活用した補助事業です。この事業は、2022年10月に各都道府県で開始され、現在も一部地域で継続されています。実施責任は各都道府県に委ねられ、審査や成果のまとめを行い、その結果を観光庁に報告します。「都道府県からの報告方法は調整中。また、不正行為などの処置については各都道府県に任せているため、観光庁は関与しない」(観光庁産業課)と話しています。
今後、各都道府県が事業の審査を進める中で、不正が発覚する可能性があります。膨大な予算が絡む事業であり、公正な運営を確保する必要があり、各都道府県は厳格な審査を行うことが求められます。