富山県氷見市がシーズン中の「寒ブリ料理」をPRするための、メディア向けイベントが1月9日夕方、都内アンテナショップ「日本橋とやま館」の和食レストラン「富山はま作」で開催された。
氷見市は富山県の西北、能登半島の東の付け根に位置。右は高岡市(富山県)。能登半島側は石川県のいくつかの市町に隣接する。氷見には豊潤な漁場があり、年間を通じて多様な魚が水揚げされる。冬の寒ブリは有名だ。
イベントの名称は、富山湾の王者「ひみ寒ぶり」解体ショー&氷見の食の魅力発信会。参加意欲がかき立てられるタイトルだ。3連休最終日の夕方、そそくさと会場のアンテナショップに向かった。電車で向かう途中、既に頭の中はブリ尽くしだ。氷見の寒ブリはシーズンごとに食べていた時期があった。知っている分、絶対的な確信があり期待に胸が弾む。
林正之市長のあいさつの後、料理長による寒ブリ解体ショーが始まった。この日のために用意されたブリは重量11kgの大型サイズ。「2日前の水揚げで熟成が進んでいい頃合い」と言う。
次に市長が氷見の寒ブリについて説明した。
「ひみ寒ぶり」ブランドについて
本格的な氷見の寒ブリシーズンの幕開けは、漁協や仲買人などの判定委員会が、水揚げされるブリの型や大きさ(6kg)、数量などを判断し、「ひみ寒ぶり宣言」を出すことから始まる。今シーズンは昨年11月下旬に出た。その前は年を超えた1月初旬だった。宣言の判断にもとづいた魚が獲れなくれば終了宣言が出る。始まりも終わりも毎年タイミングはズレるから関係者は気をもむだろう。これが「ひみ寒ぶり」のブランド戦略だ。
厳格なブランド管理に対する判定員の心の内は分からいが知る必要もないだろう。「ひみ寒ぶり」ブランドの価値が保たれていることを知れば良い。「ブランドの神髄はモノの価値だけでない。ブランドホルダー自身の向き合い方に宿る」。
宣言後、富山湾の定置網で捕獲され、氷見漁港で競られたブリが「ひみ寒ぶり」を名乗る。ブリにとっては知るよしもないが、宣言の有無で処遇が違う。ブランドが与えられると個体ごとに証明書を発行され、「ひみ寒ぶり」と赤く印字された青いスチール箱で出荷される。
ブリを一般名称で書くと「ぶり」「ブリ」「鰤」。氷見なら「氷見の寒ブリ」「氷見産のブリ」となる。ブランドの「ひみ寒ぶり」と混同しやすい。本記事の場合、文脈に合いそうな言葉を使っているためバラついている。
400年以上の歴史、持続可能な定置網漁業
ブリは例年9月~11月以降、北海道、青森県の日本海沿岸から南下し、3月~4月に産卵場の東シナ海に到着する。その間12月~2月の厳冬期、エネルギーとなる脂肪を付けたブリが能登半島の内側に入りこむ富山湾に回遊してくる。富山湾は「天然の生簀」と称されている。
富山湾は上部に対馬暖流と、下部に立山連峰から流れ出した地下水が富山湾の海底から染み出し、ミネラル豊富な海底湧水が貯まる2層構造で魚の餌のプランクトンが集集積し、それを求めて集まる魚の住処となる。
氷見漁港から20分程度の沖合に仕掛けた定置網でブリを漁獲し、船上で冷水締めをして、鮮度を保ちながら漁港に戻ると直ぐセリにかける。当日の午後には氷見市内や県内の飲食店で振る舞われる。スピードが速い分、漁師の実働時間は短いのか気になる。
氷見の定置網漁業は網に入り込むブリから3割を捕獲し、残りの7割を逃がす持続可能な漁法が特徴で、日本農業遺産(農水省)に認定されている。昭和からでなく、400年以上歴史がある。氷見から県内外のみならず、技術移転研修でフィリピンにも定着している。タイやインドネシアなどにも指導を行ったが定着していない。定置網漁業も定着は難しい。
説明の要所、市長は何度も「定置網漁業は究極のSDGs」と胸を張る。氷見の定置網漁業は400年以上という圧倒的な証拠がある。昨今のSDGsウォショ(みせかけ)とは訳が違う。念のため市長の胸元に目をやるとSDGsバッジは付いていないようだ。それを見てなんだかほっとした。
氷見の寒ブリの話を聞いて、いよいよコース料理がスタートした。解体したばかりのブリで作った料理が運ばれてくる。どれもこれも言いようがないほどに美味い。更に望むと刺身と焼魚は氷見の里山の米で食べたかった。と同じテーブルのメディア関係者と話した。脂が乗った寒ブリは海のカルビのよう。そんな戯言(ざれごと)が出たのは氷見の蔵元、高澤酒造場の銘酒「有磯曙」3種の飲み比べでほろ酔い気分になっていたからか。
現在、氷見市内では民宿や旅館、飲食店など29店舗が自慢の寒ブリ料理を提供する「ひみぶりフェア」が開催されている。期間は2月末でも、その前にブリの水揚げが終わる可能性もある。記者は氷見ならではの民宿を薦めたい。北陸らしい大きな建物で綺麗に管理され、温泉がある。料理の品数、ボリュームに驚く。女性や小食男子、お子さんは食べきれないかもしれないから事前に相談するのも良いだろう。「残してください」と言われるかもしれないが。
シーズン中は富山県内のいたるとことで、富山湾の漁港で水揚げされたブリが楽しめる。商店街の居酒屋でブリ料理を出していない店はないと思うほどだ。
会場から「氷見でブリを食べれば出世する」という声が聞こえた。このような場らし発言で笑いが出る。「ひみぶり宣言終了」が出されると、「ひみ寒ぶり」から「氷見産ブリ」として出荷される。昨年は1月22日に終了宣言が出た。出世したい人は来週にでも行くのが良いだろう。
富山まで行けない人に関東、中部、近畿で富山湾の魚を出している料理店が探せる「富山の魚キャンペーン協力店」を紹介しておきたい。店主が富山県出身の個人店舗など掲載され、自宅や会社の近くで穴場の店が見つかるかもしれない。リンク切れや更新が滞るページもあるのでご留意を。
今回のイベント会場「富山はま作」もブリのコース料理をランチ(7980円)とディナー(13800円)で提供している。同店は普段、料理長の出身地、新湊(射水市)の漁港に水揚げされるブリを提供している。氷見沖や新湊沖で獲れる個体だ。