東京都が実行委員会形式で開催するイベントで、都庁にプロジェクションマッピングが投影される「TOKYO Night&Light」の運営を都から2024年8月まで入札指名停止中の「電通」のグループ会社「電通ライブ」が担当していることが、よい旅ニュース通信編集部の取材で明らかになりました。(写真:3月3日の都庁広場)
東京都のプロジェクションマッピング事業が2023年3月に新宿駅西口で始まり、その後西新宿高層ビルや明治神宮、年末には都議会議事堂でイベントが行われました。2024年2月26日から、ギネス世界記録認定のふれこみとともに、都庁第一庁舎で年間を通じたプロジェクションマッピング「TOKYO Night&Light」が開始されました。2月25日のオープニングイベントは多くのマスコミが報じました。一方で、プロジェクションマッピング事業に対して、SNS上などで税金の無駄遣いではないかという批判も見られます。
【追記(3/30付)】2023年11月に明治神宮外苑で開催されたプロジェクションマッピング事業の受託者は、「電通ライブ」ではなく、「博報堂プロダクツ」でした。「博報堂プロダクツ」は2024年8月27日まで都による入札指名停止処置の対象となっている博報堂の100%の子会社で、電通グループの「電通ライブ」と同じような役割を持つメガプロダクションです。なお、運営業務のプロポーザルには、「電通ライブ」と「博報堂プロダクツ」の2社が参加していました。記事後半にも追記。 |
2月27日、編集部は、「プロジェクションマッピング協会」という団体のプレスリリースを確認したことから、事業を管轄する東京都観光部に、「都が協会に事業を委託しているのか」と質問すると、「事業は運営会社から協会へ委託されている」との回答を得ました。その際、「実行委員会形式(東京都、新宿区、東京観光財団)で開催されているため、都として運営会社の公表は考えていない」と答えていましたが、その後都から「部内で協議の結果、運営会社名をお伝えたい」との連絡があり、事業の受託者が「電通ライブ」であることが知らされました。
「電通ライブ」は持株会社「電通グループ」の100%出資子会社で、国内を代表するイベント会社です。多くの業務は、グループ内の総合広告会社「電通」との取引です。また、同社の公式サイトでは、自社が手がける注目のプロジェクトを紹介し、実績をプレスリリースで公表してます。しかし、現時点で、ギネス世界記録に認定された都庁のプロジェクションマッピングについてアピールされていません。
▮大阪府の「阪神オリックス優勝パレード」と類似?
大阪府では、五輪不正疑惑の中で「電通」が入札指名停止されている中で、「電通ライブ」が阪神オリックス優勝記念パレードを担当していたことが今年1月に明らかになりました。これは「抜け道利用」とされ、議論を呼びました。ただし、「電通ライブ」は大阪府からの入札指名停止を受けていないため、法的な問題はありません。しかし、吉村府知事が記者会見で「実行委員会が決定した」とのみ繰り返し述べたことで、そもそも隠す必要が無い「電通ライブ」の関与を隠匿していたかのような印象を与えました。この事実は、府のサイトでパレードの受託事業者が公表されない中で、阪神ファンが行政文書公開請求を行ったことから明らかになりました。
▮都庁プロジェクションマッピング事業」の予算
東京都のプロジェクションマッピング事業の予算について、2023年度は都庁で7億円、都庁以外の関連事業を含めると合計18億円が支出されました。さらに、2024年度、東京都プロジェクションマッピング事業の予算は約20億円(現在審議中)が見込こまれ、SNS上では予算の使い方に対して批判が生じています。
なお、都の担当者は、「2024年度事業では、電通ライブが事業を受託するかは未定」と回答しました。
【補足(3/30付)】東京都は、3月12日に行われた都議会で、プロジェクションマッピング事業に関して質問を受け、2023年度の事業費は全体で22億9千万円(内都庁分は7億円)であり、2024年度は全体で25億6千万円(内都庁事業分は10億円)となると説明しました。これにより、それ以前に報じられていた予算額を上回る金額が計上されていることが確認されました。内都庁分の金額は編集部で追記。 |
▮事業プロセスにおける透明性の欠如
現在、持株会社「電通グループ」の中核企業「電通」は、東京都による入札指名停止の借置を受けています。この状況下でも、グループ会社の「電通ライブ」が東京都のプロジェクションマッピング事業を受託していることに法的な問題はありません(東京都財務局経理部)。ただし、「電通ライブ」が五輪談合疑惑に関連して特捜部による家宅捜索を受けたことや、「電通」と密接な関係性があることなどから、東京都の事業を受託する上では、大阪府のパレード同様に、「抜け道穴利用」と指摘される可能性もあります。
これらの背景を考慮すると、東京都は「電通ライブ」にプロジェクションマッピング事業の運営を委託している事実を、法的に問題がないことと共に、事業のプロセスに応じて積極的に公表し、その透明性を高めるべきでした。このような振る舞いは、「電通」自体がクライアントに提供している企業の社会責任(CSR)コンサルティングの視点とも相反しています。
▮初の週末に見られた盛況と、機会を活用しきれない現場運営
2月26日に始まった都庁のプロジェクションマッピングは、初週末の3月3日(日)に、都庁広場で大勢の観客を迎えました。訪日外国人、家族連れ、高齢者グループが目立っていました。広大な会場には何らかのアトラクションは設置されておらず、観客はプロジェクションマッピングの上映を静かに鑑賞していました。なお、何度か「何も無いんだね」という観客の声が聞かれました。上映中は、観客がプロジェクションマッピングに集中していたためか、歓声を上げる場面はありませんでした。15分の上映が終わると、一部からは拍手が聞こえました。
なお、会場には警備員のほか、運営スタッフが観客を案内したり、会場を歩いている姿を見かけませんでした。イベント運営においては、会場でスタッフと観客の接点があれば、上映への感情移入が生まれ、歓声が聞こえたり、さらに拍手が広がったりしたかもしれません。
▮来場者数の把握は行われず
3月4日(月)午後、週末の来場者数について東京都に問い合わせました。都からの回答は「会場がオープンスペースであるため、来場者数のカウントは行っていない」とのことでした。さらに尋ねると、「改めて確認したい」とのことでしたが、最終的に来場者数がカウントされていないことが伝えられました。
会場では来場者が自発的に定位置で静かに鑑賞している状況のため、オープンスペースでも来場者数の概算は困難ではないでしょう。通常、イベント事業においては、来場者数や売上が最も重要なパフォーマンス指標(KPI)とされています。しかし、東京都プロジェクションマッピング事業では来場者数の把握の必要性がないことは、事業を受託したイベント運営会社にとっては、手離れのよい「当り案件」と言えそうです。