【コラム】「薄色メガネ大国ニッポン」うっすら色を入れたがる男達、自覚し難いバグ

先日、旅行で大阪を訪れた時のこと。立ち寄ったスタバで、中年男性4人組が熱心に打ち合わせしていた。関西弁の大きな声で話す儲け話は、東京から来た私の耳にどうしても入ってくる。だが、その話の内容以上に私のツボを突いたものがあった。
至近距離で顔を突き合わせる4人全員が、見事に「薄色メガネ」を着用していたのだ。
うっすらと色づいた4つの視線が交差する光景に、必死で笑いをこらえた。なぜだろう。別に悪いことではない。だが、なんとも言えない何かがあるのだ。
最近、日本全国、街を歩いていても、カフェでくつろいでいても、この現象がやたらと目に飛び込んでくる。若者からシニア層までの男が、こぞって同じアイテムを顔に乗せている。
グレー、ブラウン、ブルー。ほんのり色が入りつつ、奥の瞳はしっかり見える、あの「薄色カラーレンズ」である。
「薄色メガネ大国」を支える仲間たち
この流れは、メガネブランドのサイトやメディア報道をたどると、2018年頃から見え始め、コロナ禍で一気に広がったと考えられる。
ブームは一般人だけの話ではない。むしろYouTuberや気鋭の起業家、お笑い芸人、旧ジャニーズ系タレントに加え、渋めの俳優やオルタナティブ系のロックアーティストさえもが取り入れ、それが一般にも広がっていった側面がある。いまやトレンドリーダーも街の人もそろってうっすら色づいている仲間だ。気づけば日本は「薄色メガネ大国」になっていた。

オプション「+3,300円」の誘惑とコンタクトからの卒業
なぜこれほどまでに「薄色メガネ」は増えたのか。背景には、「JINS」や「Zoff」をはじめ、「OWNDAYS」や「眼鏡市場」など、全国に店舗網を広げるメガネチェーンの存在がある。近年は各社でカラーレンズのラインナップも拡充され、薄色レンズが以前より選びやすくなった。
かつて薄色カラーレンズは、表参道や銀座などに店舗を構えるデザイナー系アイウェアブランドを好む一部のファッション上級者が選ぶ特注品だった。だがコロナ禍の頃から、量販チェーンの店頭でフレームを選ぶと、スタッフがPOPを指差し「プラス3,300円でカラーレンズはどうですか」と勧められるようなった。その後、自分から求めなくても、そこへ導かれる買い物導線となっていく。
そこで心が揺れるのが、これまで「メガネ=やぼったい」と感じ、コンタクトを愛用してきた層だ。さらに30代にもなれば、眼科やネットでコンタクトを続けた場合の目の健康リスクを知りつつ、花粉症の季節には目もつらい。そろそろメガネでもいいか、と考え始める。
その時に差し出されるのが、「+3,300円~で薄色レンズにできますよ」という、あの絶妙な提案である。

透明レンズでは真面目すぎる。真っ黒なサングラスは気合が強すぎる。その中間にある薄色は、ほどよく雰囲気があり、仕事ではブルーライト対策だと言い訳できる。休日のショッピングモールで、「俺もちょっと色気づいてみようかな」と思わせるには、じつに都合のいいオプションなのだ。
結局は実用的な「度付きメガネ」?
巷では「薄色メガネ」ではなく、「薄色サングラス」と呼ばれることもある。そこで、新宿の大手メガネチェーンのスタッフに「度付きレンズを選ぶ人は多いの?」と聞くと「圧倒的に度付きが多いですね!」と微笑んだ。つまり実態としては、「洒落たサングラス」というより、薄色のついた「度付きメガネ」なのだ。実用的なアイテムになると、漂っていたお洒落感が一挙に消えてゆく。

薄色メガネで生じるバグ
「薄色メガネ」は、本人には「少しアンニュイで、洒落たクリエイティブ感」を提供する。たしかに鏡の前では、少し雰囲気が出た気がする。だが、現実はそれほど甘くない。
レンズの奥から透けて見えるのは、ミステリアスな色気ではなく、「ああ、結局ちゃんと見えてるんだね」という現実そのものだったりする。時には、ただ少し疲れた目元が、薄く着色されているだけのこともある。
薄色レンズは隠しているようで、ほとんど隠していない。むしろ「隠したい気持ち」だけが、うっすら見えてしまうところに味わいがある。
さらに悲劇なのは、服装とのミスマッチだ。
パーカーやウインドブレーカー、ユニクロのジーンズやチノパン、休日のお父さんそのものの装い。最近では、スリムタイプのスウェットパンツとのコーディネートなど。
なのに顔だけが「ちょっと気取った業界人」になっている。顔まわりだけが渋谷で、首から下は郊外のショッピングセンターのよう。明らかにコーディネートエラーが起きているのだ。
周囲の気遣いを察し「普通」に戻ろう
薄色レンズは、思っている以上に難しい。計算された服装、髪型、雰囲気、そして何よりそれを成立させる本人の雰囲気があって、ようやくサマになる。
コンタクトからメガネに移行するついでに、「手軽な課金」で手を出すには、少しばかり難易度が高いアイテムなのだ。
女友達や会社の女性社員は、たいてい何も言わない。
「あれ、ちょっと色気づいたな」
「でも服とは合っていないな」
「なんか打合せしずらいな」
そう心の中で思いながら、あなたのそのうっすら色づいた視線に困惑しながらも、優しさからやり過ごしている。
本人だけが、「ちょっとカッコよくなった自分」を意識している。
そして、そのことは、透明レンズ以上によく見えてしまう。
だからこそ、次にメガネを作る時は、いっそ素直に普通の透明レンズを選んでみてはどうだろう。見え透いた「プチお洒落心」は、その薄いカラーレンズよりも、案外くっきり周囲に見えている。
もっとも、このコラムを書き終えようとしている著者自身、その足で新宿のメガネチェーン店に向かうことになるのだがね。
