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万博閉会式、博報堂DYが受託―「#電通不在」の裏で進む実を取る“引く戦略”

電通本社
電通本社

万博協会は2025年6月28日、大阪万博の閉会式運営業務の委託事業者を「博報堂DYグループ」共同企業体を選定したことを発表した。なお、本業務の応募は同社グループのみだった。開会式は「電通」を幹事社とする共同体が受託しており、閉会式では業界2位の博報堂が起用されることになった。

2025年日本国際博覧会 閉会式に係る実施計画作成及び管理運営業務の公募について(選定結果

 

閉会式は2025年11月28日(金)に開催され、予算規模は基本業務費約4,000万円、博報堂DYグループ独自提案分として約1億6,000万円が追加設定。なお、閉会式運営業務は総額2億円だが、開会式運営関連の業務の予算は約10億円だった。

 

今回の受託構造を見れば、予算は異なるが、「開幕は電通」「閉幕は博報堂」という広告大手2社のバランスが図られたように映る。しかし、その裏には、閉会式は「電通があえて引いた」という同社の戦略的判断が垣間見える。

 

よい旅ニュース編集部は、これまで大阪万博と電通の関わりを継続して報じてきた視点から、本記事では、東京五輪の談合事件を経て、2024年に誕生した「新生・電通」の万博戦略を振り返る。

新生・電通の「引く戦略」

東京五輪の談合事件を機に、電通は2023年3月以降、大阪府市から入札参加を一時停止されていたが、2024年2月に制限が解除された。その後、開会式関連業務をはじめとする「スポット業務」を次々と受託し、現時点の契約金額は推定で総額50億円を超えている。

 

しかし、電通は、従来得意としてきた「全体運営」を預かる案件ではなく、あくまで黒衣のように目立たず、万博に関与している。このような電通の振る舞いは、万博協会や大阪府市側にとっても、いわゆる「電通案件」として批判されるリスクを回避できるというメリットがある。

新体制「電通」の誕生

2024年1月に電通史上最年少の53歳で社長に就任した佐野傑氏は、「社会からの指摘を受け止め、意識と行動の改革を徹底、加速する」と表明。新体制のもと、同年2月には万博入札参加資格を回復。その後の電通の「引く戦略」は説明した通りだ。

 

万博においてスポット業務の増加は、2023年3月に電通が大阪府市の入札停止処置となったことから、万博協会が「全体運営」を1社に任せる方式を見直し、仕様書を細分化せざるを得なかったことが要因だと考えられる。万博に復帰した電通が、各スポット業務を高確率で受託していった事実は、こうした背景を裏付けているのではないか。

 

一方で、同じく談合事件によって入札停止処分を受けていた博報堂DYグループは、復帰後も万博関連の受託実績が伸び悩んでいた。そうした中、閉会式運営業務が博報堂DYグループ1社の応募であった背景は、「万博協会と博報堂が握っていた案件」と考えるのが自然だ。その際、電通は意図的に、「応募しない」と判断したことは、「陰のフィナーレ」を演出したことになる。

突如「#電通不在」がトレンドワードに

万博開幕前、前売りチケットの販売不振が報じられた際、一部メディアがその要因を「電通不在」にあると指摘。SNSユーザー好みの言葉は「X」でトレンド入り。その言葉を鵜呑みにするコメントも多く投稿され、同社の存在の大きさが可視化される出来事であった。

 

しかし、「#電通不在」という言葉の裏側で、同社は万博のスポット業務を次々と受託。電通単独ではなく共同企業体という参加形式も駆使しながら、表に目立たず、世間の評判リスクを抑制しつつ着実に万博への関与を深めていた。

電通獲得の大阪万博スポット業務

  1. 主催者催事協賛募集業務(電通):最大20%手数料程度
  2. 開会式関連業務(電通・電通ライブ・NHKエンタープライズ共同企業体):約9億7,000万円
  3. 入場チケット販売促進業務(電通ほか共同企業体):約10億5,000万円
  4. 半年前イベント関連業務(電通・電通プロモーションプラス共同企業体):約3,200万円
  5. メディアセンター運営業務(電通ほか共同企業体):約15億8000万円
  6. メディアプラン業務(電通):約6億円
  7. 開幕レセプション運営業務(電通・電通ライブ共同企業):約1億円
  8. テーマウィークプログラム関連業務(電通・日本コンベンションサービス共同企業体):3,500万円
  9. シグネチャーオープニングイベント関連業務(電通プロモーションプラス):1,900万円

 

電通グループはこれまでに受注した万博関連業務を合算すると40億円を超え、出来高報酬が発生する協賛募集業務を含まれば、総受託額は50億円を超す可能性がある。一方で、世間的には「#電通不在」とも認識されている。

 

今回閉会式運営業務を受託した博報堂DYグループの受託業務は、これまで2〜3件程度と見られ、指名停止から復帰後の広告大手2社の実績の差は明らかだ。

表に立たず、「引いて実を得る」新生・電通

表に出ることで批判の的となるリスクを避け、裏方として着実に成果を重ねる。大阪万博における電通の戦略は、従来のどんなに批判されても真正面から突き進む「巨人」としての顔を封じた、新たな電通の顔を垣間見た。

 

 今後、大型国際イベントにおいて、「引いて実を得る」電通の戦略は、新たな公共事業に関与するビジネスモデルとなり得るのか。その問いの答えは、2027年に横浜で開催される「花博」で明らかになる。

 

本稿は、閉会式運営業務の委託事業者プロポーザルが公示された5月下旬の時点で、「電通」が事業を受託することをほぼ既定路線と見なして、6月上旬に執筆を終えていた。だが、蓋を開けてみれば、受託者には博報堂DYグループが選ばれ、期待が外れた。予定稿が見事に空振りしたが、どうやら「電通不在」の影響は、筆者の思考にまで及んでいたようだ。

 

関連サイト

大阪万博