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最後の楽園「西表島」、島内5カ所立ち入り人数制限 3月1日に開始-住民が紡ぐ島の環境保全

 沖縄県八重山諸島「西表島」(竹富町)では、2025年3月1日(土)から、島内の5つのフィールドが特に保護が必要とする「特定自然観光資源」に定め、1日あたりの立ち入り可能な人数に上限が設けられます。

西表島のジャングル

 対象エリアは、「ヒナイ川(ピナイサーラの滝)」、「西田川(サンガラの滝)」、「古見岳」、「浦内川源流域(マヤグスクの滝・横断道)」、「テドウ山」の5カ所です。
 立ち入り人数の制限は、環境省が管轄する「エコツーリズム推進法」に基づいて策定されました。運用を行う竹富町は、貴重な自然環境を守るとともに、観光客や観光ガイドの環境保護意識を高め、持続可能な観光の実現を目指しています。

滝(西表島のピナイサーラの滝)
ヒナイ川(ピナイサーラの滝)©竹富町観光協会
滝(西表島のマヤグスクの滝)
マヤグスク滝
滝(西表島の西田川・サンガラの滝)
西田川(サンガラの滝)
山から海を臨む(西表島の古見岳)
古見岳
山から海を望む(西表島のテドウ山)
テドウ山

 西表島には年間約30万人の観光客が訪れ(西表島観光管理計画2023年)、その約80%が自然体験ゾーンに入域しています。しかし、人気エリアでは観光客が特定の時間帯に集中し、自然歩道の崩壊や足跡による岩の摩耗といった環境破壊が進行しています。2021年には登山道の木や岩、看板などに合成麻薬の名称「MDMA」という落書きが発見されるなど奇妙な出来事もありました。

西表島の川やカヌー、滝

 

 これらの状況を受け、竹富町では、2022年12月に「エコツーリズム推進全体構想」を策定し、西表島全体を観光客向けのエリア「自然体験ゾーン」、世界遺産地域を含む立ち入り禁止エリア「保護ゾーン」、集落や生活エリア「一般利用ゾーン」に分けて管理を開始。特に保護が必要とされる5つのフィールドで、2025年3月から「特定自然観光資源」として指定され、1日あたりの訪問者数に上限が設けられることが発表されました。

■対象となる5つのフィールドと1日あたりの立ち入り可能人数

  • 「ヒナイ川(ピナイサーラの滝)」:200人
  • 「西田川(サンガラの滝)」:100人
  • 「古見岳」:30人
  • 「浦内川源流域(マグスクの滝・横断道)」:50人
  • 「テドウ山」:30人

 

 今回、人数制限に加え、これらの地域に立ち入るには、竹富町への事前申請と手数料の支払いが必須です。また、登録引率ガイドの同行または事前講習の受講が義務付けられています。所要時間は1フィールドあたり1時間前後、実施日は立ち入り予定日の前日になります。

  • 「ヒナイ川(ピナイサーラの滝)」:500円
  • 「西田川(サンガラの滝)」:500円
  • 「古見岳」、「浦内川源流域(マグスクの滝・横断道)」、「テドウ山」
     ・登録引率ガイド同行の場合:500円
     ・講習受講の場合:1,000円

■西表島の観光とガイド事業者

 西表島では、観光客が増加し始めた2010年代から、悪質なガイド事業者が関与する環境破壊やツアー中の安全面でのトラブルが問題視され、地域住民から改善を求める声が上がりはじめました。

 

 さらに、2018年に国際自然団体の調査を受けて「世界自然遺産」の登録が延期された際、その背景においてガイド事業者の質が課題として浮き上がりました。西表島においては、ガイド事業者の存在が、観光の発展や課題を語る上で重要な要素であることが認識されました。

 

 なお、西表島で活動する観光ガイドのうち島の出身者は全体の1割程度で、現状は島外や県外からの移住者がそのほどんどで、島内の就業者のうち約6人に1人がガイド業務に携わっているとされています。

西表島の観光ガイド数グラフ
1981年~2021年観光ガイド者数推移(海域のみを利用するガイド事業者は含まず)竹富島作成データ

 

 ガイド事業者の問題に対応するため、竹富町は2つの条例を導入しました。まず、2020年4月に「竹富町観光案内人条例」を制定し、観光ガイドを観光案内人と名付けて、免許制を開始しました。さらに、2022年には、観光ガイド1人が1日に案内できる人数を最大8名、1事業者あたり最大16名とする、案内客数を制限する条例が設けられました(※)。

 

 そして、2025年3月からは「特定自然観光資源」に対する人数制限の実施に伴い、一定のスキルを有する観光案内人には竹富町長から「登録引率ガイド」の認定を受けて(1月23日時点41事業者)、対象フィールドにおいてガイド業務を行うことが許可されます。なお、登録引率ガイドにより対応可能なフィールドは異なり、詳細は「西表島エコツーリズム公式サイト」で確認することができます。

<※案内人数制限は違憲?大手ガイド事業者が町を提訴>

 観光ガイドの案内人数を制限する条例に対し、2024年2月、西表島で営業する大手ツアー会社「株式会社NASH」は、観光ガイドの案内客数の制限は“憲法違反”であるとして、那覇地方裁判所に提訴しました。同社は 「条例は小規模事業者の保護が目的であり、2022年に約1億7400万円だった年間売上が870万円程度に激減し、事業および雇用の継続が不可能になる」と主張しました。

 

 なお、同社の採用ページでは、「一度は大自然近くで暮らしてみたい!海や南国で生活してみたい!」という夢を実現する機会として応募を呼びかけ、スタッフの多くが未経験からスタートしていることが紹介されています。

■5つのフィールドへの立ち入り申請方法

 特定自然観光資源に指定される5つのフィールドの立ち入りは、西表島エコツーリズム公式サイトの指定のフォームから事前申請を行います。まず、希望するフィールドと条件を選択し、カレンダーで空き状況を確認して申請者情報を送信すると仮申請が完了します。その後、申請内容に基づき、登録引率ガイドや講習に関するメールが届きます。

西表島エコツーリズム公式サイトの「制限フィールド立ち入り申請」

1.登録引率ガイド同行

 登録料金ガイドが同行する場合の手数料は、ガイド料金に含まれる場合と申請者自身が支払う場合があります。いずれかは依頼するガイドに確認が必要ですが、申請者が直接支払う場合、ガイドが申請者の本申請を行った後、申請者に手数料支払いに関するメールが送られます。

2.講習会の受講

 講習を受ける場合、日程を調整した後に料金支払いに関するメールが送信されます。料金を支払うことで、本申請が完了します。

3、立ち入り当日

 フィールドへの立ち入り当日は、入り口付近に掲出されているQRコードでチェックインを行います。ガイドが同伴する場合は、申請者分のチェックインをガイドが代行しますが、講習受講者は自身でチェックインを行います。

 

 申請システム運用や講習会は西表財団が担当。観光ガイドや観光客がルールを守っているかパトロールも実施されます。さらに、フィールド上において観光ガイド同士の相互チェックにより、ルールが守られていることも期待されています。

 

 今回の取り組みについて竹富町自然観光課は、「この取り組みは、自然体験型観光の在り方を考える転換点となる。 西表島の美しい自然を未来へ繋ぐため、旅行者へ協力をお願いしてゆきたい」と話します。

■住民の声が紡ぐ環境保全-世界遺産登録のはざまで

 西表島は沖縄本島に次ぐ面積を持ち、周囲約130kmの海岸部に集落が点在し、約2,400人の住民が暮らしています。島内には多くの川が流れ、東部の「仲間川」 」と西部の「浦内川」には広大なマングローブ林が広がり、その独自の生態系から「東洋のガラパゴス」と呼ばれています。また、原生林には希少な「イリオモテヤマネコ」など、亜熱帯特有の貴重な動植物が生息しています。

 

 西表島は、1972年5月15日の沖縄本土復帰時に「西表国立公園」に指定され、その後、2007年に「西表石垣国立公園」と改称されました。2018年の遺産登録の延期を経て、2021年7月には、奄美大島、徳之島、沖縄島北部とともに「生物多様性」の基準で「世界自然遺産」に登録されました。

 

 世界遺産登録を目前に控えた時期に沖縄県が実施した住民アンケートでは、西表島住民の41%が登録に否定的な意見を持ち、賛成の28%を大きく上回りました。地域住民は、2010年代から問題視されていた観光客の増加による自然環境や生活環境への影響への懸念を示しました。

 

 一方、世界遺産登録に向けた活動は、県内外の団体や企業、専門家が連携して推進して、2021年7月に登録されました。竹富町は「世界遺産推進室」を設置し、島民への情報提供や説明会を行いながら登録推進の役割を果たしました。その後、竹富町は世界遺産登録によって得られた環境保全のための資源や関係機関と連携を活用し、観光管理の強化に努めます。

 

 西表島の観光ガイドの免許制度やガイド人数の上限設定、さらに今年3月に施行される特定自然観光資源に関する規定は、2010年代以降、地域住民が声を上げ続けてきた西表島の環境保護への強い想いが形になったと言えます。

 

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