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モバイルバッテリー機内持ち込みに新ルール―米中流通網が供給する粗悪品、安全判断は個人に委ねられる

モバイルバッテリー発火
モバイルバッテリー事故の再現(写真提供:製品評価技術基盤機構 / NITE)

旅に出るとき、スマートフォンとモバイルバッテリーは切り離せない。地図を開き、移動を調べ、予約を済ませ、現地の情報を探す。旅では、スマホが案内役であり、予約係であり、財布の役目を果たす。

以前のように、出発前にすべてを調べ尽くしておく必要はない。旅の途中で考え、選び、動く。そんなフットワークは、手元の電源によって支えられている。

 

ここで考えたいのは、その便利さを支える小さな装置、モバイルバッテリーのことだ。これは、旅の流れを止めないための、手のひらサイズのインフラになっている。

 

空の旅では、その必要性は機内と降機後に続く。機内Wi-Fiの普及で、搭乗中もスマホでエンタメコンテンツを楽しむ場面は増えた。降機後はすぐに地図や乗り継ぎ、予約情報の確認が待っている。到着後まで見据えた電力の確保は、旅の快適さの一部といえる。

 

その存在感が大きくなるほど、見過ごせなくなるのが安全性の問題だ。モバイルバッテリーは「持っていれば安心」で済む話ではない。充電しっぱなしにしない。直射日光に当てっぱなしにしない。強い衝撃を与えない。利用者には、こうした基本的な扱い方が求められる。だが、それでも発火や発煙の事故は後を絶たない。

▮モバイルバッテリーの火災増加と機内持ち込みに新ルール

消防庁の「リチウムイオン電池等から出火した火災の調査結果(2025年)」によると、2022年が122件、2023年が182件、2024年が290件、2025年は482件だった。2025年は前年から約7割増となり、増加傾向が一段と鮮明になっている。2025年1月に韓国・金海空港で起きたエアプサン機の炎上事故も、現地当局の調査で、モバイルバッテリーからの出火が原因である可能性が指摘されている。

 

こうした流れを受け、国土交通省航空局定期航空協会は、モバイルバッテリーを「危険物」として、2025年7月8日から、機内に持ち込んだモバイルバッテリーを座席上の収納棚に入れず、手元で常に状態が確認できるよう求める運用を始めた

 

さらに2026年4月24日からは、機内に持ち込めるモバイルバッテリーは2個(1個160Wh以下)までとなり、機内でモバイルバッテリーを充電することや、モバイルバッテリーから他の電子機器へ充電することも禁止する

 

2025年7月の見直しは協力要請事項だが、2026年4月の新ルールのうち一部は航空法に基づく罰則対象となりうる。

 

モバイルバッテリーの火災増加に伴い、ルールは整ってきた。だが、これは事故の発生を前提にした対応でもある。なぜ危険な製品が広く流通し、打つ手は無いのか。

▮国内販売に必須の「PSEマーク」表示

モバイルバッテリーは、見た目だけでは品質が分かりにくい。デザインがよく、容量が十分で、価格も安い。だが、内側にあるセルの品質や保護回路の設計、製造工程の確かさまでは、購入時に確認するスペック表だけでは見抜けない。消費者は、「安くて大容量」にひかれやすい。

 

日本でモバイルバッテリーを販売するには、電気用品安全法に基づき、安全基準を満たす「PSEマーク」の表示が必要になる。製造・輸入事業者には、技術基準適合確認や自主検査、表示に関するルールが課されている。PSEマークの近くには、届出事業者名や定格電圧、定格容量の表示も必要だ。

 

ただし、PSEマークが付いているからといって、それだけで品質や安全性が十分に担保されるとは限らない。

 

よい旅ニュース通信の取材に対し、製品や技術の安全評価を行うナイト(製品評価技術基盤機構)は、「ECサイトでPSEマークが付いていない製品が販売されているケースがあるほか、マークが付いていても偽装の可能性がある」と話す。これは、制度と市場の実態が必ずしも一致しないことを意味する。

▮Amazonに並ぶ中国製無名ブランド 米中企業がつくる流通構造

こうした製品は、日常的に使うECサイトで簡単に手に入る。とくにAmazonには似たような製品が数多く並び、製造者や販売事業者の実態も見えにくい。中国製の無名ブランドやOEMでつくられたモバイルバッテリーが、この流通網を通じて広がっている現状を見ると、機内ルールの強化やメーカー・行政による啓発だけで発火事故を防ぎ切れるのか、疑問は残る。

 

中国での製造と、米国のプラットフォーム。その組み合わせが生む流通網が、今回の問題の背景にある。両国の企業が連携して「危険物」を流通させ、世界の旅人にその影響を及ぼしている。

▮個人に委ねられる安全判断

製品情報には、つくり手・売り手と買い手のあいだに情報格差がある。だからこそ、旅に持っていくモバイルバッテリーは、価格や容量だけでなく、「どの会社が責任を持って製造し、販売しているか」まで含めて選びたい。

 

旅は、自分の生活圏を離れ、公共交通機関や施設・飲食店、見知らぬ土地で時間を過ごす。本来、日常以上に、他者への配慮と安全への意識が求められる。新ルールを守る前に、市場に並ぶ製品を見極め、粗悪品に手を出さないようにする。

 

現状では、安全性の担保は個人の判断に委ねられている。

 

関連サイト

国土交通省「モバイルバッテリーの機内持込みの新たなルールについて」
🔗https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku10_hh_000310.html