富山空港、新愛称「富山高山すし空港」へ 県民の誇りからインパクト重視へ、「呉西」軽視を想起も

富山県の新田知事は2026年7月8日、2013年から使用してきた富山空港(富山市)の愛称「富山きときと空港」を「富山高山すし空港」に変更すると発表した。今年4月から空港運営を担う民間事業者・富山エアポートが提案したもので、インバウンド需要の拡大につながるという。
新たな愛称は、訪日外国人に知名度の高い岐阜県高山市と、日本食を代表する「すし」を組み合わせた。高山市は飛騨地方の中心都市で、富山県とは古くから経済・文化交流を重ね、「飛越(ひえつ)」と呼ばれる地域圏を形成してきた。愛称に「Takayama」を取り入れた背景には、歴史的なつながりを生かし、飛越エリアの広域観光を促進する狙いがある。
また、県は石井隆一前知事時代から富山湾の地魚にこだわった寿しメニューをブランド化し、新田県政でも「寿しといえば、富山」を掲げるなど、すしを観光ブランドの柱に位置付けてきた流れがある。

一方、新たな愛称を巡っては、SNSで「他県の高山を前面に出すことに違和感がある」「県民の声は反映されたのか」など批判的な声が多い。また、地元テレビ局が実施した県民調査でも、否定的な意見が大勢を占めた。
民間社長、就任時は「県民が誇れる空港にしたい」と抱負
富山県は2015年の北陸新幹線開業以降、ANA羽田線の利用減少などを受け、富山空港の再生を課題としてきた。2026年4月には、県が所有権を保有したまま民間事業者が運営を担う方式に移行。空港経営に民間のノウハウを取り入れている。
富山エアポートの岡田信一郎社長は就任時、地元放送局のインタビューで「県民が富山はいいところだなって誇れるような空港にしたい」と抱負を語っていた。
運営会社の富山エアポートは、投資会社の日本共創プラットフォームを代表企業とし、建設コンサルタントのオリエンタルコンサルタンツなど県外企業のほか、北陸電力、北陸銀行など地元の有力企業が出資している。
富山県から飛騨・高山へのルート
富山県から高山への主要な公共交通は、富山駅からJR高山本線の特急を利用して、約1時間30分となる。コロナ禍前は、富山空港から白川郷(岐阜県)を経由して高山駅を結ぶ直通バスも運行されていたが、現在は運休している。
自動車の場合、富山空港から高山市中心部までは最短ルートで約80km。国道360号・472号を経由する山岳ルートで通常約1時間30分、道路事情に不慣れな観光客ではそれ以上の時間を要する。県西部へ回り東海北陸自動車道を利用するルートは約125kmで、所要時間は約1時間30分となる。
飛騨地方誘客で「呉西」軽視の想起も
今回、空港の愛称で県外の高山を前面に打ち出したことで、観光導線が富山駅や富山空港など県東部(呉東)を起点に高山方面へ向かう印象を与え、県内第2の都市・高岡市をはじめとする県西部(呉西)では、複雑な反応を招く可能性もある。
県西部では、2015年の北陸新幹線開業時に新高岡駅を新設したが、最速列車「かがやき」が停車しなかった「高岡飛ばし」をめぐる議論があった。県外の高山を前面に打ち出した今回の愛称変更を、その延長線上で捉える向きもある。
| 富山県は県中央部に位置する呉羽山(くれはやま)を境に、東側を呉東(ごとう)、西側を呉西(ごせい)と呼ぶ。江戸時代には呉東を中心とする地域が加賀藩から分かれた富山藩、呉西の大部分が加賀藩に属した。こうした歴史や文化の違いを背景に、両地域にはライバル意識が根付いているといわれる。 |
地域にゆかりの無い民間運営だからこその決定とも
「富山高山すし空港」という愛称は地域の歴史・文化や県民感情よりも、海外で認知されやすい地名やキーワードを重視したマーケティング発想といえる。新田知事は新愛称について富山県に欠けていた「インパクトがある」と説明した。
こうしたネーミングは、地域とのしがらみにとらわれない民間事業者だからこそ提案しやすかった側面がある。一方、民間運営への移行から僅か3ヶ月で県民の誇りよりもマーケティング上のインパクトを優先する姿勢を印象付けたともいえる。