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琵琶湖三市花火、発表から7カ月 行政・メディアのチェック機能と主催者の開催意思を問う

公式サイトの「琵琶湖三市同時花火大会」の中止のお知らせ
公式サイトの大会中止のお知らせ。「三市同時」という漢字を詰めた特徴のある大会名称。(出典:琵琶湖三市同時花火大会公式サイトhttps://yamatanolabo.com/)

 滋賀県の長浜、彦根、高島の3市で2026年8月22日に計1万発以上を打ち上げるとしていた「琵琶湖三市同時花火大会」が、開催13日前の8月9日に中止となった。同日、主催とされる実行委員会は公式サイトとSNSに「大会中止のお知らせ」を掲載した。

 大会は琵琶湖での開催に必要な許可申請や届け出が完了しないまま、有料観覧席や出店枠が販売されていた。8月6日には長浜、彦根、高島の3市が相次いで大会に関与していないと注意喚起。その後、テレビや新聞各社が大会の実態を報じ始めた。

 

 実行委員会は3市で計1万発以上を打ち上げる準備を実際に進めていたのか。計画を早期から認識していた行政は、なぜ開催中止に至るまで申請手続きの空白を埋められなかったのか。報道機関はなぜ約7カ月にわたり大会の実現性を検証しなかったのか。

 

 実行委員会による行政への接触と、昨年12月以降の公式SNSやサイトの発信をたどれば、大会の実態を確かめる材料は早い段階から存在していた。なぜそれが開催直前まで検証につながらなかったのか。

■Instagramから始まった「3市・1万発」

 大会は2025年12月下旬、「琵琶湖三市花火大会実行委員会」とする公式Instagramで開催決定を告知。1月8日の投稿では、「2月下旬公式サイト解放及びチケット先行販売開始」と投稿された。一方、11日の投稿では1月10日~31日にチケット先行予約を案内していた。読売新聞の報道では、1月下旬ごろから7000円~1万9000円の有料観覧席が販売されていたという。

 

 Instagramでは6月下旬まで、席種やチケット販売、ナイトマーケット、国内トップクラスの花火業者の参加、問い合わせ対応などの投稿が断続的に続いた。その後、1カ月以上の空白期間を経て8月5日に、チケット販売の一時停止と開催可否が検討常態であると発表された。なお、投稿には不自然な日本語表現や、生成AIとみられる画像が散見された。

<初期の投稿例(1月初旬~)>

「琵琶湖三市同時花火大会実行委員会」公式Instagramの投稿例
【左】1月8日、一般的に公式サイト開設または公開とするところ、「解放」という言葉が使われた。
【中】1月11日、チケツト先行予約が1/10~1/31とあり、以降、時期早々にチケット販売に力を入れていた。
【右】4月6日、国内向けに訴求する花火大会では、「日本初」ではなく「国内初」という表現が相応しい。
出典:琵琶湖三市花火大会実行委員会Instagram

<大会中止に至る投稿(7月下旬~8月上旬>

「琵琶湖三市同時花火大会実行委員会」公式Instagramの投稿例
【左】8月5日、突如チケット販売を一時停止するとし、開催可否を最終判断すると案内された。
【中】8月7日、7月下旬の報道後、SNS等で関係者への誹謗中傷が増えたことに対する対応が投稿された。
【右】8月9日、8月5日の投稿で開催可否を検討するとした結果、開催中止の決定が決まった。
出典:琵琶湖三市花火大会実行委員会Instagram

■3市と県は早期から計画を認識

 大会はネット上だけに公開されていたわけではない。テレビ朝日系「ワイド!スクランブル」が3市に取材したところ、主催者を名乗る男性は2025年12月から2026年2月にかけて長浜、彦根、高島の3市役所を訪れ、「8月に花火大会を開催したい」と説明していた。高島市は、消防や警察に必要な手続きを確認するよう伝えたという。

 

 MBSの取材によると、主催者は4月ごろ滋賀県庁にも訪問した。県は琵琶湖で開催するには河川法に基づく許可申請などが必要で、残された時間が少ないとして手続きを急ぐよう伝えた。その後、県が進捗確認のため電話したものの応答や折り返しはなく、必要な申請も行われなかったという。

 

 さらに5月28日には滋賀県教育委員会が、県立高島高校の活動を支援した谷中康亮氏を「琵琶湖三市同時花火大会実行委員会代表」と県公式サイトで紹介した。

■開催1カ月前も安全手続に空白

 滋賀県琵琶湖等水上安全条例では、琵琶湖等で花火大会を開催する場合、滋賀県公安委員会への届け出が必要で、開催場所を管轄する警察署へ書類を提出する。

 

 ところが滋賀夕刊と滋賀彦根新聞が確認したところ、7月27日時点で3市、消防、警察はいずれも8月22日の花火打ち上げを具体的に把握していなかった。湖北地域消防本部は大会情報自体知っていたものの、花火打ち上げに関する申請は出されていないと説明した。

 

 必要な手続きを行う責任は主催者にある。3市や県が大会計画を認識していたからといって、主催者に申請を強制できるわけではない。それでも、1万発以上の花火、有料観覧席、JR6駅からのシャトルバス、ナイトマーケットまで掲げた大会が公然と告知される一方、開催1カ月前になっても必要な申請が確認できなかった。

■7月上旬に購入者の不安、報道は29日

 異変はそれ以前から表面化していた。滋賀夕刊によると、7月上旬ごろからチケット購入者の間で、主催者と連絡が取れないとの話が出始めていた。各市役所にも購入者や出店予定者から問い合わせが寄せられていた。

 

 公開記事で最も早く問題を指摘したと、よい旅ニュース通信編集部が確認できたのが7月29日の滋賀夕刊だった。同紙は会場や打ち上げ時刻が明らかにされないまま高額な観覧席が販売されている状況を報道。3市、消防、警察への確認から、関係機関が花火打ち上げを把握していないことを明らかにした。

 

 滋賀県内メディアや在阪準キー局などの記事を調べた範囲では、それ以前に大会の実現性を検証した報道は確認できなかった。3市が8月6日に注意喚起すると報道は急速に広がり、行政とのやりとりやチケット購入者、出店者の実態が短期間で掘り起こされた。

 

 これだけの取材力を持ちながら、昨年12月の大会告知から7月下旬まで、大会の実現性はなぜ検証されなかったのか。

■「3市・1万発」は取材対象にならないか

 新聞社やテレビ局が取材できるイベントには限りがある。しかし、主催者が掲げたのは「3市同時」「計1万発以上」「全席有料」という初開催の大型花火大会だった。

 

 琵琶湖では8月6日、「2026びわ湖大花火大会」が大津市で約1万2000発を打ち上げ、約34万人を集めた。三市同時花火大会は、その16日後に広域3市で計1万発以上を打ち上げるとしていた。

 

 SNSや公式サイト上でこのように発信している新たな大型イベントが開催される予定なら、誰が主催するのか。自治体との関係、会場、安全対策、交通計画はどうなっているのか。主催者の運営実績や実行委員会の顔ぶれ、花火・イベント・警備を担う事業者はどこか。

 

 初開催だからこそ、主催者と運営体制の信用性を確かめる取材材料は少なくない。実際、滋賀夕刊が7月末に主催者へ投げかけたのも、こうした基本的確認事項だ。

■「開催意思」は何で裏付けられるのか

 実行委員会は読売テレビなどの取材に対し、当初から大会を開催する意思はあったと説明している。一方、当初から開催意思がなければ、詐欺罪の成否が問題になり得るとの専門家の見解も報じられている。

 

 では、「開催意思があった」という説明は何によって裏付けられるのか。検証すべきは、花火事業者や会場の確保、警備、交通、安全対策、行政手続きなど、大会開催に向けた具体的な準備が、いつ、どこまで進んでいたのかという事実である。

 

 大会は昨年12月に告知され、今年1月から8月5日のチケット販売停止まで、高額な観覧席が販売されていた。その期間、開催に必要な準備はどこまで進んでいたのか。実行委員会の説明と準備の実態を時系列で照合する必要がある。

 

 金銭面の検証も欠かせない。8月5日にSNSへ掲載した販売一時停止の説明では、主催者都合で中止した場合は返金するとしていた。ところが9日の中止発表では「返金」の記載がなくなり、法的専門家に相談しながら対応を整理するとした。購入者や出店者から集めた代金をどう扱うのか。方針が変わったのであれば、その理由も説明されなければならない。

 

現在公式サイトへアクセスすると「大会中止のお知らせ」以外の大会情報を確認できない。よい旅ニュース通信編集部がアーカイブを調査したところ「特定商取引法に基づく表記」とするURLにアクセスできた。
公式サイトに掲載されている「琵琶湖三市同時花火大会」の特定商取引に関するページ
上段文章内に「大会中止に伴う今後の対応につきましては、現在、法的専門家への相談を行いながら確認・整理を進めております。」という記載。最下部に「主催者側の判断により大会が中止となり、延期開催も行われない場合に限り、チケット代金を全額返金いたします。」と記載されている。
出典:琵琶湖三市同時花火大会公式サイト

 

 メディアが見るべきは、「開催意思があった」という言葉そのものではなく、それを裏付ける準備の実態と金銭の流れである。主催者の説明を伝えるだけでなく、その裏付けを取ることが今後の報道に求められる。

 

 こうした核心部分は、メールによる書面回答だけでは十分に検証できない。滋賀県政記者クラブは主催者に記者会見など公の場での説明を求めるべきではないか。

■問題が起きてから強い組織、起きる前には弱い組織

 大会は公然と告知され、3市や県にも情報が存在していた。問題は、その断片的な情報を拾い、事実確認や対策につなげるプロセスが機能しなかったことではないか。

 

 琵琶湖三市同時花火大会は中止となった。主催者には今後、準備の実体と金銭の説明が求められる。一方、半年以上にわたり情報が存在しながら、行政もメディアも開催直前までその実態を確かめ、対処ができなかった。

 

 大手メディアにとっては、問題が顕在化すればニュース価値が明確になり、組織的な取材体制を組みやすい。今回も3市の注意喚起と中止を前後して報道が急増し、その後の取材で行政とのやり取りや購入者、出店者の実態を次々と明らかにしていった。

 

 市民やチケット購入者の不利益を未然に防ぐ調査報道より、不利益が生じてから原因を追う報道の方が、組織として動きやすくなってはいないか。

 

 報道機関に求められるのは、問題発生後に他社より早く報じることや、発表を伝えることだけではない。目の前の情報が現実と一致しているのかを確かめ、問題になる前の小さな違和感を拾うことも、社会のチェック機能を担う報道の役割である。

 

 琵琶湖三市同時花火大会は中止となった。主催者には今後、開催準備の実態と集めた金銭についての説明が求められる。一方、半年以上にわたり確認材料が存在しながら、行政もメディアも開催直前まで大会の実態を十分に確かめられなかった。

 

 空白の7カ月が示したのは情報不足ではない。存在していた情報を自ら確かめる当事者が不明確だったことではないか。