東急とJR北海道は2023年7月~9月の間、豪華観光列車「ザ・ロイヤルエクスプレス ~北海道クルーズトレイン~」を、全3プラン計9回運行します。申し込みは2月6日(月)から。(写真: ©ドーンデザイン研究所)
「ザ・ロイヤルエクスプレス」は2017年、東急がJR「横浜駅」と伊豆急「下田駅」間で運行開始。2020年、JR北海道と連携し、「ザ・ロイヤルエクスプレス~北海道クルーズトレイン~」の運行を実現。第4期の今夏、宗谷本線で最北端の地「稚内」を目指す新プランを追加するほか、従来のプランをリニューアルして運行します。
第4期は全3プラン各3回(計9回)運行。全プラン「札幌駅」発着で道内各地を巡り、車内で料理や音楽、立ち寄り先で観光やグルメ、地元の人と交流を楽しみます。プランは、主に道東を巡る「北海道クルーズトレイン」および「北海道クルーズトレインリミテッド」。道北に向かう新プランの「北海道 日本最北端の旅」。新プランはさらに前泊企画「銀鱗荘でのプレミアムな一刻」を提供(2回)。
全プラン期間は3泊4日。1日目を[第1章]、2日目を[第2章]…とし、それぞれテーマを設定(例えば「第1章-壮大な大地と自然の恵み」など)、参加者が舞台仕立ての物語に参加するように演出。
乗車料金(1人あたり)は「北海道クルーズトレイン」および「同リミテッド」が82万円~、「北海道 日本最北端の旅」が88万円~。募集人数は各回15組30名。前泊プランは12万円~(5組10名限定)。申し込みは2月6日(月)~4月17日(月)。応募者多数は抽選。別途、過去のクルーズ参加者の先行販売。申し込みは、公式サイトおよび郵便。
試乗会報告
記者は2月1日(水)、JR「横浜駅」→伊豆急「伊豆高原駅」で開催された取材会に参加した。特に首都圏の私鉄、東急の列車がJR北海道のレールを運行する意味を知りたかった。すでに4期目、広報資料など確認すれば分かるが、関係者がどう語るか興味があった。集合場所には、昨今の旅行系プレスイベントでは見ない多くのメディアが集まっていた。
一行は13:40「横浜駅」を出発。当日乗った列車は7両編成で伊豆急を運行するときと同じだったが、北海道では5両編成で運行。
終着駅「伊豆高原駅」ホームに停車する列車と、伊豆急スタッフが歓迎してくれるかットから。列車がホームに進入する際は、ホームで手を振り迎えてくれる。北海道の3泊4日の旅では、各地で地域の人が迎えてくれるのだろう。
「横浜駅」出発後、ツアーで提供される車内の料理(昼食)の一部を試食した。北海道らしい食材の味覚がシェフ腕寄りのソースに引き立てられる。「おいしい」。3つ並んでいるドリンクは、特にアイスワイン(中央)の“とぅるっ♪”とした口当たりと、濃厚な葡萄の甘みが気にいった。
●食事(右)ポワローネギと黒豚のテリーヌ ~山葵の香り~(AGRISCAPE ~札幌市~) ●食事(向う):シタカラ農園 無農薬無肥料豆のタルト(ハートンツリー ~鶴居村~) ●デザート(左):羊のヨーグルト ビーツのシロップ(ハートンツリー ~鶴居村~) ●ドリンク <赤ワイン(左)>:ナナ・ツ・モリ ピノ・ノワール(ドメーヌ・タカヒコ ~余市町~) <アイスワイン(中央)>:山幸アイスワイン(池田町ブドウ・ブドウ酒研究所 ~池田町~) <ジュース(右)>:シーベリーソーダ(CheerS~士幌町~) |
試食後、「ザ・ロイヤルエクスプレス ~北海道クルーズトレイン~」の説明会があった。東急のプロジェクトリーダー、車両デザイナー、2人のシェフ、新プランに加わった稚内市の関係者が登壇した。
東急の松田氏は2018年、胆振東部地震で打撃を受けた北海道を応援するためプロジェクトを立ち上げたことや、列車を通じて地域活性に貢献したいと話し。今夏のプランを一つ一つ丁寧に説明していく。同氏の出身地は聞いていないが、北海道に生まれ、その土地に責任を持っているかのような語り口が印象的だった。
デザイナーの水戸岡氏はJR九州の数々の車両デザインを手がけてきた。2013年に運行を始めた豪華寝台列車「ななつ星」は2021年~2022年、米旅行誌アワードで2年連続世界一に選ばれている。同氏はJR九州の仕事とも照らし合わせ、東急のスタッフを「すごいチーム」と評した。
東急の列車がJR北海道管内を走るのは「業界のタブーだったが、行動で非常識は常識になる」と強調した。また、列車を走らせると、「その準備から地域の人との出会いが生まれ、地域が活性される。そこに乗客が参加し、地域の人とともに舞台をつくりあげる。そうして地域が元気になってゆく」というような思いを伝えた。
この思いは、乗客は単にサービス受ける立場なのではなく、北海道を応援するプロジェクトの主体的メンバーとしての役割があるとも解釈できる。
シェフは、「クルーズトレイン」担当のハートンツリー「服部大地シェフ」(創作料理)および「日本最北端の旅」担当のAGRISCAPE「吉田夏織シェフ」(フレンチ)の2人。それぞれ料理のテーマや食材などを説明した。ぜひ、シェフの店をチェックしてほしい。今夏のツアーで車内の料理を担当するシェフは、道内各地で活躍する総勢8名。さまざまな料理の分野のシェフが担当するツアーの舞台に立つ。
稚内市の関係者は、新プラン参加に対する受け止めと観光資源を説明した。
話しがズレるが、記者は数年前、宗谷本線で「稚内駅」から「札幌駅」まで移動した。5-6時間はあっという間だった。絶景は時間を止めるとも言うが、時間を早く進めるとも思う。絶景と別れたあともっと見ていたかったと思うから。
車内ツアー
説明会の後、車内撮影に出かけると、ヴァイオリニスト「大迫淳英」氏が演奏していた。間近で聴く音色はぐっと身体に沁みてくる。同氏は旅と音楽の融合をテーマに活動する「音旅演出家」だ。ツアー中、演奏をたびたび聞かせてくれる。横浜駅で姿を見かけたとき、どこのファッション誌記者かと戸惑ったが、合点がいった。
水戸岡氏がデザインを手がけた車両は、車両ごとにデザインや調度品が異なる。どれも技が細かい。車両ごと細部まで違うのに落ちつくのは、上位概念が統一されているからだろう。近代建築の巨匠、独ミース・ファン・デル・ローエが残した名言「空間の神はディテールに宿る」を思い出す。
時間は15:40頃、あっという間に「伊豆高原駅」に到着した。体感的には1時間ほど。試乗はしたが、誰かに感想を伝えることはおこがましいと思った。よい面しかな浮かばなくてもだ。列車について語れるのは、クルーズに応募し、抽選に選ばれ。料金を支払い、出発まで体調を気遣い。ようやく3泊4日の旅の物語の登場人物となり、さまざまな出会いに後髪を引かれ旅を終える参加者や、地域の人、鉄道関係者にしか分からない。
後記
今回、記者は首都圏の私鉄、東急の観光列車がJR北海道管内を走ることに関心を持った。関係者の志は理解できた。北海道のプロジェクトは東急およびJR北海道のほか、JR東日本およびJR貨物が参画している。従来、常識にとらわれがちな大企業がチームを組み、非常識を常識にしたことは素晴らしい。
ここまで来たら、JR北海道のみならず地方鉄道が抱える問題解決の答えを必ず見つけてほしい。この事業はすでに多くの人を巻き込み、社会の期待を集めているからこそ、その責任を果たす必要があるだろう。