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【レポ】都庁プロジェクションマッピング1周年(2月26日) ひっそりと迎えたその実態とは?

 東京都庁の壁面を活用したプロジェクションマッピングは、2025年2月26日(水)で開始1年を迎えた。小池都知事がナイトエコノミーの起爆剤として推進し、多額の税金を投入したこのプロジェクト。現在、ほとんど話題に上ることもなく、観客数も激減し、現場は閑散とした状況とも聞こえてくる。そんな中、2025年度の予算約8億円が3月に可決される見込みだ。約1年ぶりに現地を訪れ、その状況を確認した。(写真:都庁前 / 2025年2月26日)

都庁とプロジェクションマッピング

1年前のプロジェクションマッピング開始、委託先は「電通ライブ」

 2024年2月26日、都庁プロジェクションマッピングが開始され、注目を集めたのはその事業の委託先が電通グループの「電通ライブ」だったことだ。東京五輪談合事件の影響で、電通本体は東京都の公共事業への参加資格を失っていたものの、グループ会社である「電通ライブ」が事業を受託したため、事業の公平性について議論が巻き起こった。その予算規模の大きさも相まって、法的には問題がないとしても、ネガティブな意味を含む「電通案件」と見なされ、社会的に大きな波紋を呼んだ。

【関連記事】2024年3月5日【独自】「東京都プロジェクションマッピング事業」は電通ライブが受託-グループの電通は都の入札指名停止の中で

 

小池都知事の主張と経済効果の不透明さ

 批判を受けた小池都知事は記者会見で、「プロジェクションマッピングはインバウンド観光の促進に貢献している」と強調。2023年度の経済効果について、予算7億円に対し、2.5倍の18億円と試算を発表した。その効果をアピールした。しかし、2024年度は予算約9億5000万円が計上されたが、経済効果について、現時点では発表されていない。

【関連記事】2024年4月2日【検証】都庁プロジェクションマッピングの来場者数と経済波及効果?ー集客装置「展望室」の存在に照らし

 

1周年の存在感を消す広報戦略?

 2025年2月26日、都庁のプロジェクションマッピングは開始から1年を迎えた。しかし、この節目を記念する催しや特別な盛り上がりは見られなかった。記者自身、当日たまたま「X」でプロジェクションマッピングの集客苦戦を指摘する投稿を目にし、16時頃になって1周年であることに気づいた。以前、小池都知事は記者会見で「39万人の観覧者を集め、東京の新たな観光スポットとなっている」と強調していたが、現場の実態はその言葉とは大きくかけ離れているのだろうか。

 

 東京都の「東京プロジェクションマッピング実行委員会事務局」に連絡し、1周年記念の催しについて尋ねた。担当者は思いもよらない問い合せだったからか、驚いた様子で「確かに本日で1年だが、特に催しは行わない」と答えた。

 

 行政が大規模予算を投じる事業では、通常、1周年に合わせて記念イベントを開催したり、最低限プレスリリースを発信したりするのが一般的だ。しかし、プロジェクションマッピングにはそのような動きは一切見られなかった。本当にナイトタイムエコノミーで盛り上がっていると主張するのであれば、都民に1周年の節目を知らせる広報活動が欠かせない。

 

 むしろ、1周年を意識させないような広報戦略が取られていたのではないだろうか。もし事業担当者の立場であれば、現状を踏まえ、「都知事への配慮」を最優先に考え、知事レクで周年記念イベントの開催を提言しにくいだろう。「現在は訪日外国人旅行者向けのPRに集中すればよい」という判断のもと、「都民にはプロジェクションマッピングの存在感を消す」という戦略は、比較的考えやすい方向性とも言える。

 

 2024年2月26日、19時30分頃、久しぶりに都民広場に到着。プロジェクションマッピングがナイトタイムエコノミーの目玉として機能しているのか、疑問が残る現場の様子を察した。広場には、150人程度の観客が散らばっていたのを見て、集客力が大きく減少していることが分かる。昨年500人ほどが集まっていたのを見て、費用対効果に疑問を抱いたものだが、今回はその1/5程度しかいない。

1日260万円のコストに見合う効果は? 現場の状況

夜の都民広場
【今年】2025年2月26日の都民広場

 

夜の都民広場
【昨年】2024年3月23日の都民広場

 2024年度の予算9億5000万円を通年営業の365日で割ると、1日あたりのコストは約260万円になる。機材はリース契約で費用は圧縮されているだろうし、会場が無料で、受付テントが閉鎖されており、警備員以外のスタッフも見当たらない状況でコストが妥当なのか疑問が残る。

 

 プロジェクションマッピングの開始当初と比較し(写真)、1年が経過した現在、見学者が減少するのは自然な流れとも考えられる。しかし、本事業の予算は2024年度の方が高く、さらに「通年開催」という形態をとっている以上、年間を通じた安定した集客が求められる。また、日本人観光客の減少は想定されるとしても、訪日外国人旅行者の大幅な減少は、事業のコンセプトと大きく乖離する。

 

 それでも観客のほとんどは訪日外国人であり、日本語を聞くことはほとんどなかった。昨年と比べ、スマホで撮影する人やカメラマンの姿も少なく、SNSでの反応も期待できそうにない。上映後の反応も乏しく、観客は義務的に立ち寄っている様子が見受けられた。

プロジェクションマッピング
人が少ないため苦労して撮影した見学者と都庁のカット

 彼らは「東京都が力を入れている」と理解して訪れているだろう。一方、その期待に見合う雰囲気になっているとはいえず、むしろ東京都の評判を落としかねない状況になっているようだ。

経済効果の実態と予算の継続、見えない成果

 小池都知事は2023年度の予算7億円に対し、経済効果を18億円と試算した。しかし、2024年度の予算9億5000万円に見合う経済効果は、現時点で示されていない。都民広場の状況を見ても、東京都の試算と現実の間には大きな隔たりがあるように思える。都庁職員に試算の発表時期について尋ねても、明確な回答は得られなかった。

 

 それにもかかわらず、都庁プロジェクションマッピングの事業は2025年度も継続される予定だ。東京都は新たに7億9000万円の予算を計上し、3月の予算特別委員会での可決が確実視されている。しかし、集客の低迷が続く中、この予算がどのように活用され、具体的な成果を生み出すのかは不透明なままだ。

 

 本来、観光振興を目的としたこの事業が、実際に東京への観光客の流入や経済波及効果にどれほど貢献しているのかを測る指標はほとんど示されていない。現場を訪れた際も、来場者のカウントやアンケートを集めるスタッフの姿はなく、観客の動向を把握しようとする動きは見られなかった。

 

 この1年間、都民に約束された経済効果を達成するための集客努力が十分に行われたのか。膨大な予算を投じながら、1周年を迎えた時点でその成果は乏しく、特に日本人からの関心は大きく低下している。

誰がこの事業で利益を得られたか?

 都庁プロジェクションマッピング事業が始まって1年。この事業で最も利益を得たのは、2023年・2024年と2年連続で受託している「電通ライブ」だろう。通年で開催されるこの事業において、2025年度も「電通ライブ」が引き続き受託する可能性は高い。

受付けテント
1年前には見かけなかった「infomation」だが閉鎖され運営スタッフは見当たらない

 

 過去2年間のプロジェクトは、社会的合意形成を得られず、集客面でも十分な成果を上げたとは言い難く、具体的な経済波及効果も不透明だ。仮に2025年度の受託が決まれば、東京都からもより具体的な成果が求められるだろう。これまで電通グループは、多層的な下請け構造による「中抜き」が批判されてきたが、今回はそれとは異なり、業務の品質が疑問視される「手抜き」と指摘ができる。プロジェクションマッピング事業における社会との不合意形成を克服するためには、質の高い成果物が必要不可欠だ。

次のナイトタイムエコノミ―案件—26億円「お台場」噴水ショー

 都庁プロジェクションマッピングは2025年度も継続されるが、観客減少で存在感が薄れている。一方、小池都知事は次の目玉として、お台場に26億円を投じる「ODAIBAファウンテン」(2026年度末完成)を計画。東京都は、レインボーブリッジや東京タワーを背景にした噴水ショーで訪日観光客を呼び込むつもりだ。

 

 くしくも、都庁プロジェクションマッピングが1周年を迎えた2026年2月26日の都議会で、「ODAIBAファウンテンは年間3000万人の観覧を見込み、経済効果は98億円」との試算が報告された。建設費26億円に対し、約3.8倍のリターンが期待できるという。

 

※都庁プロジェクションマッピング事業の予算については、40数億~60数億円といった数字が話題に上ることがあります。これらは「他のプロジェクションマッピング事業や都庁周辺開発などの予算が加算されている」(東京都)とされ、マスコミ報道を分析すると、政策論争の中で取り上げられることが多いようです。当サイトでは、そのような推計値は扱わず、東京都が公式に発表もしくは直接取材で得られた予算額に基づいています。

 

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