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公取砲の威力、全国自治体で旅行大手4社の指名停止が広がる-青森市コロナ談合きっかけに

 公正取引委員会が2024年5月30日に発令した独占禁止法違反による「排除措置命令」を受け、2022年度青森市の新型コロナ事業で談合していた大手旅行会社4社に対する、入札指名停止が青森県内および全国の自治体に広がっています。

青森市コロナ業務談合で入札指名停止された大手旅行会社4社ロゴ

 公正取引委員会の排除措置命令は、2022年度の青森市による新型コロナ患者移送業務で、旅行大手「JTB」、「名鉄観光サービス」、「日本旅行東北」、「東武トップツアーズ」が談合していたことが原因です。排除措置命令を受けて、青森県は6月4日、JTBと名鉄観光サービスに1年間、日本旅行東北と東武トップツアーズに6カ月間の入札指名停止を発表。青森市は6月5日、JTBと名鉄観光サービスに18カ月、日本旅行東北、東武トップツアーズに9カ月の入札指名停止を行いました。

 

 現在、青森県内にとどまらず全国自治体で旅行大手4社に対する入札指名停止が急速に拡大しています。公正取引委員会の排除措置命令に応じた自治体の指名停止は、各自治体における事業者登録(役務登録)の有無等に基づく判断によって行われるもので、全国で統一された基準はありません。

青森市コロナ患者輸送業務で旅行大手4社談合のスキームの図(公正取引委員会)
青森市新型コロナ患者移送業務の談合スキーム(公正取引委員会 作図)

近ツーは課徴金減免申請で排除措置命令の対象外に

 今回の事態は、2023年11月に公正取引委員会が青森市内の旅行大手5社(近畿日本ツーリストを含む)に立ち入り検査を行い、その後の調査で旅行会社の支店長級担当者が談合していたことが確認された結果です。その中で、青森市との直接契約を結びながら、市に無断で他社に業務の一部を再委託していた近畿日本ツーリストは公正取引委員会に事前に自主申告を行い、「課徴金減免申請」を受けたため、排除措置命令の対象から外れました。課徴金減免申請は、公正取引委員会の調査前に自ら不正を認め、調査に協力することでペナルティーを軽減できる制度です。

近畿日本ツーリストのロゴ

 これについて近畿日本ツーリスト総務部に聞くと、「昨年、全国自治体のコロナ関連事業で多数の過大請求事案が発覚し、社内点検を実施した際に青森市の業務で不適切な事案が見つかり、公取に申告した」、「(申告時期は)立ち入り検査以前」と説明しました。それでは、自己申告が各社の立ち入り検査につながったのかと尋ねると、「当社の申告が立ち入り検査につながったかどうかは分からない」と答えました。

(参考)2023年9月25日【記者会見】KNT-CTH米田社長が不正防止は社員の人間力と強調|不正を生む企業風土は誰がつくるか(

各社の指名停止期間の差異は調査協力の姿勢

 排除措置命令を受けた各社では、東武トップツアーと日本旅行東北、名鉄観光サービスとJTBの間で、例えば前の2社が6カ月、後の2社が1年間など自治体の入札指名停止期間が異なります。これについて公正取引委員会は、「調査前の課徴金減免申請(今回の近ツー)以外に、調査中に協力的な姿勢が示される場合に受けられる減産制度がある」とし、続けて「課徴金減免申請は自己申告を促し、調査協力減産制度は相手の調査協力を促し、早期の不正解明につながる制度」と説明します。各自治体はこれらを参考にして、入札指名停止期間を検討します。

 

 今回の談合解明は、公共事業における談合根絶に向けて重要な意味を持ち、自治体の入札制度の見直しが必要であることも示されています。公正取引委員会は、青森市の入札プロセス自体にも問題があると指摘しています。

公取の排除措置命令のインパクト、全国自治体に広がる指名停止

 公正取引委員会の排除措置命令に伴ない、青森県全域の自治体が該当企業を入札指名停止にしています(6.12 東奥日報「旅行大手談合で21自治体が指名停止」)。その影響は青森県内にとどまらず、全国の自治体にも広がっています。編集部は調査を進めましたが、現時点では影響の広がりが大きすぎるため、調査を中断しました。「指名停止 旅行会社名 PDF」などで検索すると、各自治体が公開している情報がならびます。公正取引委員会の旅行大手4社に対する排除措置命令は、その影響の大きさを浮き彫りにしています。

<全国自治体に広がる入札指名停止の波……(青森県外)> 6月17日現在

【都道府県】山形県、栃木県、茨城県、千葉県、埼玉県、東京都(公園協会)、山梨県、岐阜県、愛媛県、京都府、香川県、島根県………

【市区町村】函館市、会津若松市、桐生市-伊勢崎市-太田市-吉岡町、壬生町、土浦市、港区-杉並区-江東区-台東区-目黒区-八王子市-小平市、横浜市、坂戸市、千葉市-館山市-四街道市-佐倉市-印西市-我孫子市、長野市、浜松市、岐阜市-関市、名古屋市- 蒲郡市-半田市-長久手市、大津市-長浜市、八幡市-木津川市-長岡京市、高槻市-東大阪市- 和泉市-守口市-吹田市-牧方市、神戸市-姫路市-西宮市-太子町- 三田市-明石市-宍粟市、岡山市、広島市、鳥取市、北九州市-春日市、唐津市-佐賀市………

※各自治体により指名停止企業と期間が異なります。

排除措置命令の影響は各自治体の認知と判断

 公正取引委員会による排除措置命令は、広報発表とマスコミ報道を通じて、全国の自治体に周知されます(公正取引委員会)。命令を知った自治体の契約審査担当部課は、排除措置命令の対象事業者が登録事業者(役務登録)である場合など、規則に基づいて入札指名停止措置を行います。つまり、今後、全国自治体で旅行大手4社に対する入札指名停止措置がさらに広がることが考えられます。

JATA-日本旅行業協会への独占禁止法順守申し入れ

 公正取引委員会は、近畿日本ツーリストを含めた5社が日本旅行業協会の会合の場でも談合を協議していた事実をつかみました。これを受け、公正取引委員会はJATA-日本旅行業協会に対し、加盟各社対する独占禁止法順守を徹底するよう申し入れました。これに対し、JATAは5月30日、「(当協会の)コンプライアンスへの取り組みが不十分であった」と発表しました。

 

 旅行大手の業界団体JATAー日本旅行業協会の高橋広行会長(JTB取締役会長)は、コロナ禍の自治体事業で近畿日本ツーリスト社員の逮捕など加盟企業の不正事案が相次いだことを受け、2023年12月に有識者委員会を設立しました。2024年の年頭所感ではコンプライアンスの重要性を訴え、3月の再発防止の報告では「業界からの不正を根絶するため、自ら先頭に立って対応策を実行していく」と決意表明していました。

参考記事)2023年12月23日【独自調査】2023年末 生活者400人が振り返る「旅行業界」の不正問題と次の懸念、期待など-業界信頼度低下40%

各社、公式サイトでコーポレート・ガバナンス経営を約束

 今回、公正取引委員会から「排除措置命令」を受けた「JTB」、「名鉄観光サービス」、「日本旅行東北」、「東武トップツアーズ」は日頃、株主や旅行者、取引先などのステークホルダーに対し、公式サイトを通じて強固なガバナンス経営を約束しています。

JTBグループ-ガバナンス体制

名鉄グループ-コーポレート・ガバナンス

東武トップツアーズ-コンプライアンスの取組み

JR西日本グループ(日本旅行)-コーポレートガバナンス

KNT-CTホールディングス(近畿日本ツーリスト)ーコーポレートガバナンス

 

関連サイト

公正取引委員

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